ウェディング・チャイム
急ぎ足で職員室へ入り、甲賀先生と談笑していた講師の先生とご挨拶。
今回の授業の担当者は私だったのに、お迎えが遅くなってしまったことを詫びた。
「遅れてすみません。ちょうど今、SNSがきっかけのケンカが勃発してしまい、対応していたところでした」
これは、講師の先生に今日特に話してもらいたい内容を伝えつつ、甲賀先生への報告も兼ねているつもり、だったりする。
「そうでしたか。それはまたいいタイミング、でしたね」
講師の先生……四十代くらいの愛想のいい男性は、にこにこと相槌を打ってくれた。
「スマホ関連のトラブルは色々ある上、持ち込み禁止という学校がほとんどですから、表に出てこないんですよね。よくわかりましたね」
「保護者が教えてくれました」
「それはしっかりした保護者さんですね。では、そのあたりの話を中心に、進めさせていただきますね」
……視聴覚室に集まった六年生、総勢六十人。
みんな真剣にプロジェクターの映像を見つめていた。
「……このように、一度ネット上にUPした画像や文章は、世界中の誰からも見ることができます。中には、名前がバレないのをいいことに、ひどい書き込みをする人もいます」
スクリーンに映し出されているのは、問題ありの画像に対する厳しいコメントの数々。
「これを俗に『炎上』と言います。書き込んだ本人がまずい、と気づいて消しても、大抵は誰かが証拠として保存してしまいます。魚釣りした時、大物を釣った証拠に『魚拓』をとりますが、Webの場合も証拠を残しておくことを『魚拓』と言ったりします。みんなはスクリーンショット……スクショって使ったことありますか? あれも手軽に証拠を残せますよね」
画像が変わり、室内がちょっとざわめく。出てきた画像がライン、しかもユニークなスタンプが画面の両端に見えたから。
「何気ないやりとりに見えますが、これもちょっと問題ありです。この『なんできたの?』っていう言葉、あなたはどう受け取りますか?」
「どうして来たの? っていう意味、かな?」
一組の児童がそう答えた。
「そう思っちゃいますよね。実際には『どういう交通機関を使ってここまで来たの?』っていう意味で使ったそうです。『どうして来たの?』だと、来てほしくないのに何で来たの?っていう悪い意味として受け取られるかもしれません。短文でのやりとりだと、誤解が生まれやすいということがわかります」
みんな、なるほど、とうなずいている。
「相手の顔や声がわからない、文字や簡単な絵だけの会話は、時々こういうことが起こります。大事な要件は、ちゃんと相手の気持ちを想像しながら直接話した方が誤解は少ないでしょう」
講師の先生はこの他にも、スマホゲームで高額の課金をしてしまった例や、SNSのやり取りが終わらなくて、夜中までスマホが離せない女子中学生の例を、パワーポイントを使いながらわかりやすく語ってくれた。
さすがプロ。子ども達は興味津々という表情で最後まで集中して話を聞いていた。
うちのクラスの女子も、これを見て色々思うところがあったに違いない……。