ウェディング・チャイム

 六時間目は、先ほどの出前授業で学んだことをもとに、講師の先生へのお礼の手紙と、感想を書くことになっていた。


「先に手紙を書きましょう。もらって嬉しい手紙になったかどうか、必ず読み返してから提出してね。そのあとで感想を書きます。早く終わった人は、頂いたパンフレットをじっくり読んで待っていてください」


 全員、真剣に手紙を書いている。今のうちに、さっきの言い争いがどうなったか聞いておこう。

 頭の中で、以前聞いた甲賀先生からのアドバイスが再生される。

 
『その日のトラブルはできるだけその日のうちに解決すること。家に帰って悶々として、眠れなくなる子どもの気持ちを考えてみたら、辛いだろ?』


 よし、頑張ろう。明るい明日のために。

 舞花ちゃんと里香ちゃんを呼び、廊下に出た。すると。


「先生、もう大丈夫だよ。さっき先生が呼ばれて行ったあと、うちら……奈々と紗絵も一緒に話し合ったんだ」

 舞花ちゃんがすぐに切り出した。里香ちゃんもそれに続けて語り出す。

「舞花がごめんって言ってくれたの。里香も悪いところがあったからごめんって言ったよ。紗絵と奈々もそれぞれ謝って、今までのはなかったことにしようって」


 意外にも、あっさり仲直りできたようだ。でも、あんなにとげとげしかったのに、なぜ?


「それを聞いて安心したよ。良かった~。みんな素直に謝れて偉かったね。大人でもなかなかできないよ。何か謝るきっかけがあったの?」

 その問いかけに対して、舞花ちゃんが一瞬顔をしかめた。そして。

「舞花が書いちゃったこと、色んな人に知られてたみたいで。掃除の時間に稜君から『俺は舞花が先に謝った方がいいと思う』って言われたの」


 ……なるほど。好きな人からのアドバイスで、自分の行動を見直せたっていう訳ね。

 稜君もきっと、お母さん経由で情報を得たのだろう。


「そうだったんだね。舞花ちゃんも奈々ちゃんも、言われたことに反発しないで受け入れたっていうのは立派。里香ちゃんと紗絵ちゃんも許してくれたようだし、ほっとしたよ」

「仲直りはできたけど、書いちゃったことは残っちゃうんだよね……」

 舞花ちゃんが呟いた。それを聞いた里香ちゃんは、明るい声で言った。

「これからは楽しいことをいっぱい書いて、流しちゃおうよ」

「うん。そうする。早速今日からね!」


 とりあえず、一件落着。

 ……後日、紗絵ちゃんのお母さんからまた「今度はスマホに夢中で勉強しないんです」という相談を受けて、この四人には『スマホ安全教室』のパンフレットを熟読しなさい、という宿題を出すことになるのだけれど。


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