ウェディング・チャイム

 放課後の職員室でコーヒーを飲んでいると。


「お疲れ。で、SNS絡みで揉めてた件、どうなった?」

 書類の壁の向こう側で、甲賀先生が話しかけてきた。

「無事に解決しましたよ。その日のトラブル、その日のうちにって教えてくれましたよね」

「そうそう。どうやって解決できたか聞かせて欲しい」


 今までの四人の状況と、解決までの流れを簡単に説明すると、甲賀先生はにっこり笑った。

「高学年女子のドロドロにうまく刺さって解決できたとは、藤田ちゃんもなかなかやるな。スマホ安全教室への取り組みも良かったし。俺が過労死寸前のへろへろになってる間に、自分できちんと問題を処理できるようになったとはね。いやあ、成長著しいパートナーで嬉しいよ」

「褒めすぎです。それに、稜君のおかげですから」

「稜が助けてやらなきゃって考えたんだとしたら、それは藤田ちゃんの人徳だろ。それか、幼馴染の紗絵を守ってやりたいか……この場合、両方だな」

「そうかも知れません。大人になったら、きっと頼れるいい人になれるでしょうね」

「あーあ、今回は美味しいとこ、全部稜に持ってかれたな。俺、今週は研究授業するだけで精一杯だった……ってことで、金曜の夜だしがっつり飯食いに行くけど、一緒にどう?」

「行きます!」

 やった! 久しぶりにじっくり話ができる!

「じゃあ、渋谷ちゃんも誘って三人でジンギスカンだ! 飲むぞ! 車置いてタクシーで迎えに行くから」

 え? 三人かぁ……。ちょっと期待したのにな。なんてことはさておき。

「はい。待ってます」

「またまた酔いつぶれないように、藤田ちゃんはこれ飲んで」


 そう言って、甲賀先生は自分の教材ロッカーの中から、見覚えのある金色のボトルを取り出していた。全く、どこにボトルキープしてるんですか!

 ……かくいう私も、教材ロッカーの中に、チョコレートとおせんべいと非常食のカップラーメンが入っていますけれど。



「今週もお疲れさん!」

 甲賀先生、五年担任の渋谷先生、そして私の三人でビールジョッキを合わせた。

 一人暮らしトリオの真ん中、渋谷先生が「ジンギスカン久しぶりっす」なんて言いながらもりもり食べている。

「今日は奢るからどんどん飲んで食えよ~。渋谷ちゃん、飲んでるか~?」

「遠慮なく飲んでま~す! 甲賀さんもどうぞどうぞ」

「今日は俺、ほどほどにしとくわ。過労死寸前だからさ」

「マジっすか~。じゃあ、藤田さん、いっとく?」

「あ、はい、ありがとうございます」


 飲んで食べて賑やかにジンギスカンを楽しむ。

 美味しいラム肉とビールと気の合う同僚に囲まれて、最高の気分。

 あっという間の二時間だった。

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