ウェディング・チャイム

「やっぱり寒いな~。特に六年生教室って端っこだから、温まらないしさ」

「そうですね。でも、手袋はめて作業はできませんし」

「よし、早く終わらせるぞ!」


 作業を進めながら、とりとめもないおしゃべり。


「あ、雪が降ってきましたね」

「ホントだ。ようやくスキーシーズン到来だな」

「はぁ……」

「どうした藤田ちゃん、まさかスキー滑れないなんていうことは……あったりするのか?」


 ついに白状するときが来てしまった。


「スケートならできるんですよ! スピードスケート! 難しいんですからねっ!」


 北海道民だからみんなスキーが得意という訳ではないのです。

 北海道の中でも、私が生まれ育った十勝はスケート王国と呼ばれ、スピードスケートのメダリストをたくさん育てている。お隣の釧路はアイスホッケーが盛んで、高校や実業団は何度も日本一になっている。

 先生方が学校のグラウンドに板を立て、雪を踏み固めた上に水を撒いて、屋外リンクを作ってくれたっけ。

 だから、一月から二月にかけては、毎日のようにスケートの授業があるのです。

 スピードスケートなんて、履いて氷の上に立つだけでも難しいんだから!


 なのに、憐みの眼で見られてからひとこと。

「ああ、スキーは滑れないんだな……って、それはまずいぞ。初任者研修でやらなかったのか?」

「……日程と人数の都合で、スケートとカーリング講習に回されました」

 甲賀先生はプリントから顔をあげて、私に尋ねた。

「子ども達から教わるのと、俺に教わるの、どっちがいい?」

「甲賀先生、教えてください」

「了解。もうちょっと早く教えてくれたら、シーズンインからガンガン特訓したんだけどな~。それよりウェアとスキー一式は持ってるのか?」

「この間のボーナスで全部買いました」

「結構な出費だったな。必要なものとはいえ、高かっただろ」

「はい。それでも私はこれから毎年使うからいいとして……保護者にとってもかなり痛い出費ですよね」

「そうだよな~。板とブーツはレンタルで済ませたとしても、ウェアは買わなきゃならないし、子どもなんてサイズも変わるし、きょうだいも多いとホント大変だと思うよ」


 これから先、毎年使うものだから……と、ちょっといいものを買ったら、諭吉さん十人が旅立ってしまった。ボーナスの残りを数えたら切なくなったけれど、これも初期投資だと思って諦めたのだった。

 そんなことを話すうちに、丁合作業が終わった。

「二人でやればあっという間だな」

「お疲れ様でした。これであとは終業式を迎えるだけ、ですね!」

「……忘年会もな」


 大丈夫、忘れていませんよ。心の中で呟いた。

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