ウェディング・チャイム
「今年もお疲れ様でした~!」
「乾杯!」
いつものように、陽気な宴会が始まる。
年内の大きな仕事は終わり、あとは長期休業中恒例の事務処理と雑務が少し残っているだけ、という開放感。
終業式のあとは忘年会という学校はかなり多い。一般企業の忘年会もほぼ同じ時期なので、毎年忘年会の幹事さんは会場をおさえるのに苦労している。
今回はホテルの宴会場を貸し切りというちょっと豪華なもの。
浮かれた気分で飲もうとしたら、八木先生からこっそり情報が流れてきた。
「ここの宴会係に、うちのクラスの保護者がいるから。あと、フロントの美人さんは、甲賀先生のクラスの子のお姉さんだってよ」
「わかりました。学校の品位を傷つけない程度に飲みます」
「ふふふ。わかればよろしい、なんてね。お互い気を付けましょう」
一次会が終わり、みんな二次会へと流れていく。
一次会に続き、二次会でもくじで甲賀先生と離れた席になってしまったが、すぐ向かいにはいつもの独身仲間・渋谷先生がいるので楽しめた。
「そっか、藤田さんって、スケートだったんだ」
「はい。スピードスケートでした。あ、フィギュアとホッケーも滑れますけど、トリプルアクセルは無理です」
「誰もそこまで期待してないって!」
「だって、みんなスケートをバカにするんだもん。難しいんですからね!」
「はいはい。ところで、去年のスキー授業は?」
「一度も行ってません。少人数指導担当だったんで、算数だけで時間割埋まっちゃいますから」
「ああ、そうだったね。それで今年慌ててるんだ」
「その通りです。ああどうしよう~。子ども達からバカにされるかも。それより、憐みの目で見られる方が痛い~」
ビールグラス片手に愚痴っていたら、渋谷先生からこんな申し出が。
「俺で良かったら教えるよ。山はどこがいいかな……初心者コースも充実してるところってなると、やっぱりニセコか富良野だと思うんだけど、冬休み中に行ってみようか?」
「え? ニセコですか?」
「うん。外国人が大勢来るぐらい、雪質も良くてさ……」
それまでニコニコしていた渋谷先生の表情が一変した。
あれ? と思ったら、私の背後からかすかなアイスミントの香りがした。これはもしや……。
「渋谷ちゃん、お気遣いありがとう。でも、六学年として俺が何とかするから大丈夫」
「甲賀さん、あの、俺、もしかしたら余計なこと、しました?」
何となく、怖くて後ろを振り向けないんですけど。
「そんなことはないよ。これからも高学年で仲良くやっていこう」
「ですよね~。さ、甲賀さん、飲んで飲んで」
「渋谷ちゃんも飲むぞ~。あ、藤田ちゃんはほどほどにな。またべろんべろんに酔っぱらったら収拾つかなくなるからさ」
そう言って、私のすぐ横に座った甲賀先生は、こっそりとこう耳打ちしてきた。
「酔ってるし危なっかしいし、目が離せなかった」