ウェディング・チャイム
「夜、お仕事をされていて、子どもの就寝時間まで一緒に居られないという事情はよくわかりました。お母さん、今までご苦労も多かったことでしょうね」

「ま、まあ、そうなんですけれど」

 新山さんの表情も声も、さっきとはまるで違う。

 甲賀先生が間に入ってくれただけで、こんなに変わってしまうなんて。

「では、こういう方法はどうですか。寝るのは何時まで、とはっきり決めます。学校でも指導しますね。それと携帯で遊んでるという話でしたが、もしかしたらスマホですか?」

 今時は小学生のスマホ率も高い。

 特に、子ども向けのスマホが発売されてからはその割合が一気に加速し、それに伴ってオンラインゲームにハマる子どもも増えている。

「そうですけど……」

「ジュニア向けのスマホでしたら、使える時間を保護者が決めることができます。夜九時からは使用できない設定にしてみてはどうでしょうか。ちょっと試して下さい。それでもまだ夜更かしするようでしたら、また一緒に次の作戦を練りましょう」

 そう言って爽やかに笑う甲賀先生は、職員室で八木先生から雪崩注意報を受けて笑ってごまかしているいつもの姿とは全然違う。

 きちんとしたスーツに身を包み、丁寧で誠意ある対応に、穏やかな口調。

 さすが学年主任。

 じっと見られていたことに気づいたのか、今度は私の顔をちらっと見てから話し始める。

「私も未婚で、もちろん子どもは自分が知る限りおりません」

 ……こんな真剣な話をしている最中に、その微妙な表現はどうかと思いますけれど、甲賀先生!
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