ウェディング・チャイム
二次会は結局、甲賀先生と渋谷先生の二人からスキーができないことをさんざんいじられ、スケートネタで爆笑された。
「スキーよりスケートの方がウェアは高いかも知れませんよ。ジュニアの時に着ていた私のウェア……あれもワンピースって言うんですけど、五万くらいしましたから」
「そんなにするの、あれが? あの、ぐでっとしたやる気のないたまごの横で踊ってるヤツが着てる、あのウェアだろ?」
「ちょっと甲賀先生、やる気のないたまごと一緒にしないでくださいよ! あれ着て滑るとめっちゃやる気ある人っぽく見えるみたいで、みんなよけてくれるんですから」
「いやー、見てみたかったなー、藤田さんのやる気のあるぐでっとしたたまご姿」
渋谷先生にまで笑われて、悔しいのでまたビールを飲もうとしたのだけれど。
「わかったわかった。そんなに自棄になるなって。でもって、渋谷ちゃんには見せてやんなくてもいいからな」
「え?」
「……少しは気づけよなー、二人とも」
少しムッとした表情を浮かべて甲賀先生は私の飲みかけのグラスを奪い、それを一気に飲んでしまった。
「藤田ちゃんはこれ以上飲むな。また酔っぱらって妄想の世界でパトラッシュと眠ったら、この時期マジで凍死するぞ」
まだ、あの時のことを覚えていたとは。
そんな私たちを見て苦笑いしている渋谷先生が、ウーロン茶のピッチャーを取りに行ってくれた。
その、ほんの僅かな隙に。
「二次会が終わったら、話そう」
「はい」
「そろそろ、タイムリミットだ」
「わかりました」
それだけ言うと、甲賀先生はその場を離れてしまった。
その後は、それぞれ別のグループに分かれて会話を続けた。
渋谷先生は八木先生と、何やら真剣な話をしているらしい。学年のことだろうか。
私は養護の先生や講師の先生と、話題の恋愛映画やドラマの話をしていた。
甲賀先生は、教頭先生と校長先生に挟まれている。
今後の人事で、何か参考になるような話でもしているのだろうか、なんてぼんやり考えたら。
「藤田先生は、お付き合いしている人、いるの?」
「……私、ですか? いや、えっと、何ていうか……」
「ああ、いいのいいの、はっきり答えなくてもいいから。でも、否定はしなかったわね?」
ぼーっと甲賀先生を見ているうちに、養護の先生に核心を突かれた。無礼講とはいえ、油断できない。
「最近、何か可愛くなったなー、と思ってね。そろそろ結婚を考えてもいいお年頃でしょう?」
「そう、ですよね。年に不足はないのですが、担任としての経験も浅いですし……」
「経験なんて後からいくらでも積めるの。でも、この人って思ったら、さっさと決めちゃった方がいいよ。私達っていつどこへ飛ばされるかわからないでしょ? 飛ぶ前にくっついてしまえば、あとは何とかなるから」
「そういうもの、ですか?」
「うん。後悔しないように。ときには勢いも必要だから、ね」
励ますように、肩をそっと叩かれる。
養護の先生の結婚指輪が、会場の照明に照らされて眩い光を放っていた。