ウェディング・チャイム
二次会が終わり、みんなでお店の外へ出た。
「三次会行く人~?」
教頭先生の呼びかけに、何人かの先生が集まっている。珍しく、八木先生も最後まで残るらしい。
さっきまで一緒に話していた養護の先生も、その輪の中に混ざっている。
誰かに誘われる前に、この場から離れた方が良さそうだ。
「すいません、お先に失礼します」
「気を付けてね。あ、タクシー乗り場までの道、一人じゃ危ないわ」
「そうですよね……ちょうどいいところに甲賀先生が。送ってあげて」
教頭先生の言葉に、八木先生がすぐ反応した。甲賀先生を私の方へ誘導している。
「いいですよ。俺、今日はもう帰りますから」
「じゃあお願いね」
まだまだ飲み足りない元気な先生方は、夜の街へ消えていった。
二次会で帰る他の先生方も、それぞれ同じ方面で乗り合わせたり、旦那様や奥様がお迎えに来てくれたり。
繁華街のタクシー乗り場はかなりの行列だった。
「混んでるな~。ちょっと歩いて、違う乗り場へ行くか?」
「そうですね。酔い覚ましも兼ねて、歩きたい気分です」
小樽運河の方面へ向かって、並んでゆっくりと歩いた。
観光スポットの方にも、タクシーが停まっている場所があるらしい。
雪あかりでうっすらと明るい道を、しっかり踏みしめて進んだ。
「俺の親父も、教員だったんだ。校長会の会長も務めたっていう、それなりにやり手の管理職でさ」
甲賀先生が突然身の上話をはじめたので、私は少し驚いた。
家族の話はほとんど聞いたことがなくて、夏休みに定食屋さんへ連れて行ってもらった時に少し聞いただけだった。かくいう私もほとんどしていないけれど。
「お袋も教員で、職場結婚だったらしい。だけどお袋は、結婚と同時に仕事を辞めた」
「どうして辞められたのか、ご存知ですか?」
「ああ。仕事と家庭の両立は、自分には無理だって思ったそうだ」
「もったいない、ですね」
「まあね。お袋は、親父が全力で働ける環境を作りたかったって言ってた。それだけ、親父の仕事に対する姿勢が良かったって。お袋は『甲賀先生』に惚れたそうだ」
『甲賀先生に惚れた』
その言葉が持っている意味と、私が抱いている感情が、今、ぴったりと重なった。