ウェディング・チャイム
~初心者なので手加減してください~
「滑れるようになった美紅に、乾杯!」
「ありがとうございます! 甲賀先生のお蔭です」
「……いつになったら、俺の名前呼んでくれるの?」
「え、えっと、結婚してから、かも?」
ホテルのレストランで、祝杯をあげた。
甲賀先生はビール、私はカクテル。
「明日も特訓するつもりでいたけれど、これ以上連続で滑ったら、膝や腰が辛くないか?」
「うーん……。実はちょっと、ブーツが擦れて痛いところがあるんですよね。あと、甲賀先生も本当は上級者コースで思いっきり滑りたいんじゃないですか?」
「いや、俺は美紅が上達するのを見ている方が楽しい」
甲賀先生は、さらっと褒めてくれるのが本当に上手だと思う。
「じゃあ、明日はスキーをやめて、室内ビーチでまったり泳ぐか」
「私もここのビーチ、ちょっと行ってみたかったんです」
露天風呂はこのビーチに併設されている。国内最大級の波が売りの室内ビーチだけれど、プールサイドで営業しているカフェも美味しいと評判なのだ。
「明日はプールの営業時間に合わせてチェックアウトして、プールサイドで昼飯を済ませてから、小樽へ戻ろう」
「わかりました」
明日、小樽へ戻ったら、もうこんなに近くにはいられないのかも知れない。
狭い街だから、どこを歩いていても、子ども達や保護者に見つかってしまう。
それを考えると、今、こうして二人だけでのんびりと食事できることが、最高の贅沢だと思える。
「こんなに素敵な合宿、初めてです」
そう告げた私に、甲賀先生はしてやったり、という笑顔を向けた。
「行くと決めてから、あんまり日数がなくて、部屋が取れるかどうか直前までわからなかったんだ。もしもダメだったら、ゴーグルをずっとつけっぱなしで市内のスキー場へ三日間日帰りで通ってたかも知れないな」
「……ゴーグルつけっぱなしでご飯食べる人なんていませんから」
「そうならなくて、本当に良かった」
たくさん笑って、楽しく食事を済ませた。
部屋へ戻って、私が荷物の整理をしているうちに、甲賀先生はお風呂を済ませてしまったらしい。
「今日は風呂場の前で寝るなよ」
そう言われて、交代した。