ウェディング・チャイム

 ジャグジーをゆっくり堪能して、少しだけ筋肉がほぐれたのを確認。

 ドライヤーで髪を乾かしていたら、甲賀先生がこちらへ来た。


「疲れて立っているのもしんどいだろ。髪の毛なら俺が乾かしてやる」


 事実、疲れてしゃがみ込みたい気分だったので、その申し出をありがたく受け入れた。


「部屋から椅子を持ってきたから、そこに座って」


 鏡の前で、甲賀先生に髪を乾かしてもらっている自分の姿を見て気が付いた。

 思いっきり、すっぴんなんですけど!

 しかも、日焼け止めを塗っているにもかかわらず、ちょっぴり雪焼けしてしまい、ゴーグルの跡がついているし。


「どうした?」

「……恥ずかしいんです。色々と」

「スキーで派手に転んだことか?」

「それもあります」

「俺を合計四回も下敷きにしたことか?」

「それもです」

「昨日またパトラッシュと床で寝てたことか?」

「そんなこともありましたね」

「すっぴんを俺に見られたことか?」

「はい」

「こんなことくらいで、そこまで恥ずかしがることはないと思うが」

「……何もかも初心者なんです。こういう場合、どんな顔をすればいいんですか?」


 すると、ドライヤーを止めて、甲賀先生が私の乾いた髪をそっと自分の口元へすくい上げた。

 私の髪にキスしているんだと思ったら、ますますどうしていいのかわからなくなる。


「その表情で、そのままで、いい」

「え?」

「美紅がこんな顔を見せるのは、俺が初めてで、最後になる」


 椅子をくるりと回された。

 甲賀先生の顔が近づいて、私の目の前で止まった。


「俺は君のまるごと全部、気に入ったんだから」
< 171 / 189 >

この作品をシェア

pagetop