ウェディング・チャイム
ジャグジーをゆっくり堪能して、少しだけ筋肉がほぐれたのを確認。
ドライヤーで髪を乾かしていたら、甲賀先生がこちらへ来た。
「疲れて立っているのもしんどいだろ。髪の毛なら俺が乾かしてやる」
事実、疲れてしゃがみ込みたい気分だったので、その申し出をありがたく受け入れた。
「部屋から椅子を持ってきたから、そこに座って」
鏡の前で、甲賀先生に髪を乾かしてもらっている自分の姿を見て気が付いた。
思いっきり、すっぴんなんですけど!
しかも、日焼け止めを塗っているにもかかわらず、ちょっぴり雪焼けしてしまい、ゴーグルの跡がついているし。
「どうした?」
「……恥ずかしいんです。色々と」
「スキーで派手に転んだことか?」
「それもあります」
「俺を合計四回も下敷きにしたことか?」
「それもです」
「昨日またパトラッシュと床で寝てたことか?」
「そんなこともありましたね」
「すっぴんを俺に見られたことか?」
「はい」
「こんなことくらいで、そこまで恥ずかしがることはないと思うが」
「……何もかも初心者なんです。こういう場合、どんな顔をすればいいんですか?」
すると、ドライヤーを止めて、甲賀先生が私の乾いた髪をそっと自分の口元へすくい上げた。
私の髪にキスしているんだと思ったら、ますますどうしていいのかわからなくなる。
「その表情で、そのままで、いい」
「え?」
「美紅がこんな顔を見せるのは、俺が初めてで、最後になる」
椅子をくるりと回された。
甲賀先生の顔が近づいて、私の目の前で止まった。
「俺は君のまるごと全部、気に入ったんだから」