ウェディング・チャイム
翌朝、筋肉痛とそれ以外の痛みを感じながら目覚めると、既に隣のベッドは空になっていた。
シャワーを浴びに行こうと思って立ち上がると、足腰がふらふら。
スキーのせいだけでないことは明らかで、ちょっとだけ甲賀先生がうらめしくなった。
……何度か謝られたから、許してあげるけど。
シャワーを浴びて、少しだけメイク。パジャマにガウンのままリビングへ降りていくと、新聞を読んでいた甲賀先生が顔をあげた。
いつから起きていたのか、すっきりした顔をして、もう着替えている。
「おはよう。大丈夫か?」
甲賀先生、主語がないです。そこは照れがあるのですね。
「おはようございます。……大丈夫ですよ。でもやっぱり、スキーは無理です」
「そうか……これでもかなり抑えて……いや、ごめん」
しゅんとしている甲賀先生が何だか可愛く見えたので、私も穏やかに会話を続ける。
「こちらこそすみません、不慣れなもので……」
なんだかかしこまった言い方になってしまったので、少しだけ笑った。
すると、同じように感じたらしい甲賀先生が、さらにかしこまった言葉で続ける。
「いえ、不慣れなあなたに無理をさせてしまったようで申し訳なく思います……しかし、私達にとって懸案事項であるところの、Wでおめでたい報告をするような事にはならないよう、細心の注意を払いました」
言い終わってから、にやりと笑ってこっちを見ている。
「ああああもうこれ以上いいですっ! わかりました! 着替えてきますね!」
その後、レストランで朝食を摂り、チェックアウトを済ませてから室内ビーチへ。
少しだけ波と戯れて、露天風呂へ浸かり、美味しいランチをいただいた。
「あっという間でしたね。また来たいな……」
帰りの車の中で、少し名残惜しい気持ちを伝える。
「すぐ来られるさ。次は夏の雲海テラスっていうのもいいな」
「そうですね。その頃にはもう……」
「結婚して、堂々と二人で歩いていられるから」
スキー合宿のお蔭で、何とかスキーは滑れるようになったし、二人の仲も深まった。
これから始まる卒業までのラストスパートに向けて、私達はまた慌ただしい日常に戻ることとなる。
残りわずかな同僚としての関係も、大事にしていきたいと思った。