ウェディング・チャイム
放課後。職員会議が終わり、みんな一斉にお手洗いや給湯室へ向かう。
今日の会議はかなり長かった。
年度末反省だから仕方がないけれど。
いつものように、高学年の島で子ども達との会話を再現して、アドバイスをもらうことに。
「うちの女子、チョコをどうやって渡そうか、どうすれば学校へ持ち込めるかって、その話ばかりしている気がします」
八木先生が同情するような目で私を見た。
「わかるわ~。藤田先生はまだ若くてしかも独身だから、彼女達にとって一番責めやすい先生なのよ。昔は私もそうだったけど、今なんて責めてもダメだって解ってるから、誰もそんな話をしてこないわよ」
確かに、ベテランの八木先生にそんなことは聞けない……怖いし。
「俺も聞かれたことないっす。子どもからもらったことならあるけど。もらっちゃったらもう、注意もしにくいっていうか」
渋谷先生が苦笑いしながら話してくれた。
「もらう側はいいですよね。でも、あげる側は先生の目を盗んで、他の女の子の目も盗んで、ようやく渡したと思ったらうまくいかなくて、なんていう苦労があるんでしょうね~」
私はそんな経験ないけれど、と、心の中で付けたしながら話していたら、甲賀先生がその話題に参加してきた。
「……もらう側だって大変なんだぞ。お返しは二倍がデフォ、実はチョコとか甘いものが苦手でも、準備してくれた気持ちを考えたら断ることもできない。中学に勤めてた頃なんて、新しいカレンダーもらったらまず、バレンタインデーが土日であることを祈りながら見たものだ」
男の先生にも、そんな苦労があったのね……。
お付き合いを始めてから早一か月半。学校では普段と変わらないようにしているつもりの私達。
週末だけ、私が甲賀先生のお家へ行くことにしているけれど、それも人目を忍んで本当にこっそり。
だけど、どうしても二人で一緒に行かなくてはならない場所もあるわけで。
今日の仕事帰り、旅行代理店へ行くことになっていた。
海外ウェディングと、新婚旅行の相談をするために、平日の遅い時間を選んだ。
週末や昼間より、子ども達や保護者に会う可能性が低いからだったんだけれど、それが裏目に出てしまうなんて……。