ウェディング・チャイム
~疑惑のバレンタイン~
平日のバレンタインデーは嬉しくない、と、以前甲賀先生が言っていたのを思い出す。
そして今日がその平日のバレンタイン当日。
職員室の先生方には、毎年女の先生が合同でチョコの大袋を買って配っているので大丈夫。
一応、校長先生と渋谷先生には個人的にプレゼントしておいた方がいいかも、と考えて、ハンカチつきのチョコを選んでみた。
甲賀先生はどうしようかと、かなり悩んだ。
何しろ、コーヒーはブラック無糖、好きなお菓子はおせんべい、黙っていてもいっぱいチョコをもらっちゃう人だから。
考え続けた結果、選んだものを渡すには、学校ではなく甲賀先生の自宅でなくては、という結論に。
今日は定時に帰れるように、仕事頑張ろう!
こんなに楽しい気分のバレンタインデーは、初めてだった。
ところが、教室へ着いてみると。
「先生! 健太君が何か……学校へ持ってきちゃいけないものを持ち込んでます!」
光太郎君の訴えで、みんなが健太君に注目する。
「健太、何持ってきたんだよ?」
「見せろよ」
「ダメだって! お前らには関係ねーだろ!」
「待って!!」
慌てて止めに入ったけれど、健太君のランドセルを光太郎君が取り上げる方が早かった。
健太君のランドセルを勝手に開けた光太郎君が中のものを取り出してから、動きを止める。
綺麗にラッピングされた、手作りのチョコレートと手紙だった。
「あ……ごめん」
「ダメだって言ってんのに! 俺にこれをどうしろっていうんだよ!」
教室中が、静まり返った。
その静寂は、ほんの数秒で終わった。
奈々ちゃんがわっと泣き出した。女子がみんな奈々ちゃんの周りに集まってくる。
舞花ちゃんだけが光太郎君のもとへ駆け寄り、叫んだ。
「あんたって、最低! 健太君は何も悪くない! 今日は何の日か知ってるでしょ? あんたのせいで、せっかくのバレンタインデーを台無しにされた子がいるの!」
この一言が決定打となり、クラス中に知れ渡ってしまった。
健太君にチョコを渡したのは、奈々ちゃんであるということが。