ウェディング・チャイム

 一時間目は国語だったけれど、それどころではない子ども達の対応をするため、新出漢字を調べて書き取りをするように指示を出し、またまた個別で廊下へ呼び出す。


 まずは光太郎君。

 彼は生真面目で、融通が利かない性格だったりする。

 きまりは必ず守るし、守らせようとする意識が高いことは長所である。

 でも、今回はそれが裏目に出てしまったわけで。

 光太郎君自身も、まさかバレンタインのチョコだったとはつゆ知らず、余計なことをしてしまったと反省しているようなので、静かに言って聞かせるにとどめた。

「人の持ち物を勝手に見るのはマナー違反。必ず、相手の様子を見て『ダメ』とか『やめて』って言われたら、ストップすること。あとで健太君に謝ろうね」

「はい……」

「戻ったら、健太君を呼んできてね。そのついでに謝れたらいいと思うな」



 次に健太君。

「先生、光太郎が謝ってくれたから、俺はもういいよ」

「うん、健太君は悪くないんだよね。わかってる。ただ、相手の女の子はきっとものすごく傷ついてると思うんだ」

 知っているけれど、あえて奈々ちゃんの名前は出さないでおいた。ところが。

「先生、ホントは奈々がくれたって気づいてるんでしょ?」

「……うん。あれだけ派手に泣いちゃったら、みんな気づくでしょうね」

「あーあ、こんなことになるなら、受け取らなきゃ良かったのかな」

「それは難しいよね……断られてもショックだし」

「だよね。あとで奈々にフォロー入れておくよ。でもそうするとまた、誰かに冷やかされたりするんだろうし……」

「そういう時こそラインとかメールで、ていねいに文章を書くといいかもよ」

「わかった。先生、俺、メール苦手だけどやってみるよ」

「ありがとう、健太君。戻ったら舞花ちゃんを呼んできてね」



 ふくれっ面の舞花ちゃん、登場。

「バレンタインの日くらい、学校にチョコ持ってきても見逃して欲しいよ。そうすればこんな問題にならなかったのに! 先生のけち」

「……舞花ちゃん、このきまりは私が決めたわけじゃないんだけど。それに、例外を認めちゃうとどんどん崩れていくからね。学校は勉強したり、友達と仲良くしたりするところであって、お菓子を持ち込む場所じゃないから」

「わかってるけど……あれじゃあ奈々が可哀想すぎるよ。奈々、昨日すっごく頑張って作ったんだよ。それなのに見世物にされちゃって、健太君にも迷惑かけちゃって」

「うん、わかってる。その辺のところは、健太君もメールでフォローするって約束してくれたから」

「ホント? でもそれ、みんなに知られないかな?」

「多分、あなた達が黙っていれば心配ないよ。そういう訳で、奈々ちゃんを呼んできてくれる?」

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