ウェディング・チャイム
泣きはらして真っ赤な目になってしまった奈々ちゃんが来た。
「奈々ちゃん……悲しかったね。ショックだったでしょう」
こくりと頷いた。
「納得できないきまりだったかも知れない。でも、勉強に関係のないものは持って来ない『ルール』だから。それはわかってもらえる?」
また頷いて、新たに浮かんだ涙を拭っている。
「あなたがしてしまったのは『ルール違反』で、他人の持ち物を勝手に見た光太郎君は『マナー違反』なの。健太君はそれに巻き込まれてしまった。でもね、健太君は光太郎君のことを許しているし、奈々ちゃんのことも、あとでフォローするって言ってたよ」
「……ホント?」
「本当だよ。誰かに見られたらまた冷やかされたりするかもしれないから、苦手なメールを頑張って打つって言ってたの。……健太君って、優しいよね」
「……うん。だから、チョコレート、あげたかったの……」
ぽろぽろと涙がこぼれる奈々ちゃんを見ていたら、私も思わずもらい泣きしてしまいそう。
「健太君、その気持ちは理解してくれていると思うよ。優しい子だから」
「でもね……同情されるだけだったら、もっとつらいよ……」
「そうだよね……だから、同情だけじゃない感情をもってもらえるように、奈々ちゃんも前を向いてね」
「……うん」
「落ち込んだままでいたら、健太君はますます気にしちゃうし、舞花ちゃんも心配するよ」
「……うん。わかってる。頑張って立ち直る。でも、今はまだ無理」
「少しずつ、立ち直っていけたらいいね。奈々ちゃんが元気になるように、応援してるから」
そう告げると、奈々ちゃんは、少しだけ笑顔を見せようとしてくれた。
ほっとしたのもつかの間。
「……先生、奈々も応援してるよ。甲賀先生とのこと」
「え? 甲賀先生?」
「この間、会ったよね。二人とも眼鏡かけて変装してたから、一瞬わかんなかったけど」
「いや、あれは変装じゃなくて、コンタクトを長時間つけてるのが辛かったっていうか……」
「ハワイのパンフレット、熱心に見てたよね。行くのは旭川なのに」
「旭川は何回も行ってるけど、ハワイはいつか行きたいなーって……」
苦しい言い訳を続けているうちに、嫌な汗が流れた。
「甲賀先生と二人で行きたいなーってこと、だよね?」
……教員として、子どもに嘘は言いたくありません。でも……。
「大丈夫だよ、先生。奈々は今まで、舞花にも誰にも言わないで黙っていたんだから」
確かにそうだ。あの恋バナ大好きな女子が、私と甲賀先生が一緒にいたというネタに食いつかないはずはないのに。
「わかった。誰にも言わないで。……否定はしません。これ以上は許して!」
「頑張って。甲賀先生モテるから、きっと今頃チョコレート山ほどもらってるよ」
……さっきまで泣いていた子どもに励まされることになるなんて。