ウェディング・チャイム
「……という訳です。バレちゃってました」
「うーん。ま、しょうがないか。いずれバレる日が来るんだから」
「でも、奈々ちゃんは意外と口が固いから、卒業式まで秘密にしてくれるような気がします」
「だといいけどな」
悩みに悩んだ末、バレンタインデーのプレゼントに選んだものは、鍋セット。
一人暮らしの甲賀先生の家には、カセットコンロと土鍋がなかったから。
今夜はその新しいお鍋を使って、二人で鍋パーティーをしているのです。
「泣いても笑っても、卒業式まであと二十日ちょっとだな。早く正確に評価を終わらせて、指導要録を書き上げてしまおう。卒業式が終わったらすぐに出発だからさ」
「そうですね。なんだかまだ信じられないんですけど」
「だよなぁ。去年の今頃、美紅はまだ俺のことなんてちっとも気にしてなかっただろうし」
いいえ、違うんですよ。
今だから言えますけど。
「歓迎会の日、隣に座っていたの、覚えてますか?」
「ああ、覚えてる。歳を聞かれて、びっくりされたんだよな」
「そうです。あの時、私はこう思ってたんです。十歳も年が離れていても、それを感じさせない人だなって。あれだけ毎日走り回って、新人の私に楽しい話題を振ってくれて。だけど仕事になると、十歳以上の差を感じているんです。いつまで経っても、この先生には全く追いつけないだろうなって」
「それは、誉め言葉、だよな? 精神年齢が幼いわりに、授業の内容が年寄り臭いとか、そういう意味ではないと信じたい……」
「もちろんです。……あ、お野菜、もうちょっと入れましょうか……うん、いい感じ。だけど、授業のこと以外であまり話す機会がなくて。どんな人なのかわからないし、彼女さんだっているかもって思って……」
「それで、今は?」
「もしかしたら、私に告白させようとしてるんですか?」
「当たり。バレンタインデーだし」
「ううう、今日はしらふだから恥ずかしいんですけど。でもチョコの代わりに甘い言葉を吐いてみますからねっ!」
深呼吸を何回か繰り返す。そして。
「大好きです、新(あらた)さん」
……言い終わってから、恥ずかしさのあまり床を転げまわりたくなった。
けれど、できなかった。
「ありがとう。最高のバレンタインだ」
ぎゅーっと抱きしめられた。
大きな体にすっぽりと包まれて、私も最高のバレンタインを堪能した。