ウェディング・チャイム
3月の行事予定
~円周率は永遠に続きます~
卒業式を目前に控えたある日。
甲賀先生が校長室へ呼ばれた。
いよいよ、内示が出たんだな、と思った。
そわそわ、落ち着かない気持ちで待っていたけれど、ここで聞く訳にはいかない。
『教室で仕事しています』とメモを残して、三階へ。
卒業制作の版画を整頓していたら、甲賀先生が現れた。
「今、ちょっと話してもいいか?」
「はい。大丈夫です」
少しだけ間を置いて。
「来年度から、教育局で指導主事として働くことになった」
「おめでとうございます」
この若さで指導主事、というのはすごいこと。
でも、どこの局?
「札幌だから、近くて助かったよ」
「良かった……離れずにすみますね」
「今回はね。でも、これから先、どうなるかわからない。だから、一緒に報告しに行こう……校長室へ」
「はい」
いよいよ、その時が来た。
校長室では、ほとんど甲賀先生が話してくれた。
お互いの両親への挨拶を済ませていること。
今月中に入籍をすること。
子ども達には、卒業式の日まで内緒にして欲しいこと。
卒業式が終わったら、海外で結婚式を行うこと。
校長先生は、終始にこにこと話を聞いてくれた。
「おめでとう。いつ来てくれるのかと、ずっと待っていましたよ」
「え?」「はい?」
甲賀先生と私は、一緒に驚きの声をあげた。
「あまりにも煮え切らないから、八木先生がイライラしていてね。忘年会の日、先生方みんなで何とかして甲賀先生と藤田先生を二人きりで一緒に帰らせようとしていたんですよ」
そういえば……三次会へ誘われる前に、教頭先生と八木先生が、甲賀先生に命令していた。
『危ないから、タクシー乗り場まで送っていって』と。
「きっとみんな、喜んでくれますよ。卒業式の日、どのタイミングで子ども達に知らせるか、打ち合わせしましょう」
校長先生が『卒業証書授与式』と書かれたバインダーを持ってきた。
「このタイミングだったら、ちょうどいいと思うんですけれどねぇ……」
校長室で密かに打ち合わせを進めているうちに、驚く子ども達の顔が思い浮かんできた。