ウェディング・チャイム

 翌朝、校長先生に入籍したことをお伝えして、職員朝会でも私たちの結婚が発表されると……。

 盛大な拍手と、賑やかな冷やかしの声と、祝福の言葉に包まれた。

 それに応えて、私たちは立ち上がり、先生方にお辞儀をした。

 甲賀先生がひとこと、挨拶をする。


「お蔭様で、婚姻届けを提出できました。先生方、陰になり日向になり、ご協力くださいまして、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。合わせて、卒業式の最後の帰りの会まで、どうか子ども達には内緒にしていてください」


 このことは内緒だと、みんな理解してくれた。


 八木先生は、ハンカチを持ってうるうるしている。


「何かもう、なかなかくっついてくれないから、このまま甲賀先生が転勤して離れ離れになったらどうしようってドキドキしちゃったわよ。渋谷先生はとんでもなく鈍いし」

「いや、すみません。なんか俺、余計なこといっぱいしちゃった、かも?」

「かも、じゃないの! 忘年会の日、ちょっぴりお説教しておいたけど」


 もしかして、八木先生と渋谷先生が深刻な顔で話していたあれって、学年のことじゃなくてお説教だったの!?

 渋谷先生、お気の毒……。


 
 小学校生活最後の休み時間。

 最後の給食。

 最後のランドセル。


 みんな、寂しそうに、けれども嬉しそうに話してくれた。

 この学校に通うことができて、楽しかったと。

 このクラスで学んだことを、ずっと忘れないと。



 会場設営も無事に終わり、最後にもう一度教室の掃除をしていた。

 隣の教室からも、モップをカチャカチャと振るう音が聞こえる。

 ……指導主事になってしまう甲賀先生は、これが最後の担任となるのだろう。


 私は初めての担任で、甲賀先生は最後の担任。

 濃密な一年を一緒に過ごすことができて、本当に幸せだと思った。


 泣いても笑っても、明日が最後。

 笑おう。笑顔でみんなを送り出そう。

 最後の日にみんなで笑うために、一年間頑張ってきたのだから。

 
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