ウェディング・チャイム
~ウェディング・チャイム~
「卒業証書、授与。六年一組 荒木翔」
「はい!」
甲賀先生の声と子どもの声が、体育館に響き渡る。
何度も練習した証書授与の作法は、みんなしっかりと身についている。
私も何度も練習したから大丈夫。
ドキドキする。胸が破裂しそうなほど緊張している。袴だから余計に苦しい。
ああ、もう一組の女子が終わってしまう。次はうちのクラスの番。
「以上、男子十六名、女子十四名、計三十名」
甲賀先生がマイクの前から一歩下がり、お辞儀をした。
戻ってくるときに、私へ視線を向けてくれた。それだけで、少し心が落ち着いた。
マイクの向きを思いっきり下げる。
何しろ前に話していた先生は、私より三十センチも背が高いので。
そんな自分がおかしくなり、自然と笑顔になった。
「同じく二組。青木 光太郎」
「はい!」
証書授与が終わり、送辞・答辞が終わり、呼びかけと式歌が始まる。
音楽室で何度も練習して、これで大丈夫だと思って体育館で歌ったら、あまりの声の小ささにびっくりしたあの歌。
今は、暖房の音にも負けずに、しっかり響いている。
もっと聴いていたいよ、みんなの歌。
学習発表会でも、みんなの歌声は素晴らしかった。
伴奏が上手に弾けなくて、迷惑をかけてしまったことも思い出す。
女の子達のケンカや、チョコレート事件。
一人ひとりの顔を見ながら聴く、最後の歌。
堪えていたのに、みんなが泣き出したら、私も泣いてしまうじゃない。
最後の礼をしてから、盛大な拍手に送られて退場する。
涙でぼやけた視界の中で、先頭を歩く甲賀先生の背中が見えた。
最後まで、あの大きな背中に守られていた一年だったような気がする。