ウェディング・チャイム

 最後の帰りの会。

 教室の後ろには、保護者もずらっと並んでいる。


「帰りの会を始めます。皆さんから連絡はありませんか?」

 いつもと同じように、日直が進めてくれる。

「はい!」

 里香ちゃんが手を挙げた。

「先生、今までありがとうございました。感謝の気持ちをこめて、私達とお母さん達とで、プレゼントを用意しました。受け取ってください」

 いつの間にか、子ども達の手には、綺麗な花が一輪ずつ。

 学級委員の森川さんが、こっそり用意してくれたらしい。

 座席順に一列に並んで、私へ一人ずつ持ってきてくれた。


「先生、いろいろ、ごめんね。いっぱい迷惑かけちゃった」

「里香ちゃん……そんなことないよ。これからも応援しているからね」


 握手しながら、一言ずつ言葉を交わす。

 胸がいっぱいで、ずっと泣きながら話していたような気がする。



「先生からの連絡です」

「はい、日直さん、ありがとう。保護者の皆さま、本日はおめでとうございます。今日までたくさんのご支援とご協力、本当にありがとうございました。お花も、嬉しかったです」

 それから、ゆっくりと呼吸を整えて、子ども達の顔をしっかり見る。


「たったの一年だったけれど、皆さんの担任になれたこと、本当に嬉しかったです。いろいろあったけど、皆さんはその度にぐんぐん成長していきました。あまりにも成長しちゃって、もう、このクラスで私より小さい子がほとんどいないくらい。そこがちょっぴり悔しいです」

 子ども達も、お母さん達も、笑ってくれた。

「これからも、いろんなことがあるでしょう。辛くて悲しいこともあるかも知れません。でも、命さえあれば、元気でいられたら、大逆転が可能です。どうか、自分を大切にしてください。ひたむきに生きていれば、きっといいことがありますから……」


 ここまで話したところで、チャイムが鳴った。

 帰りの会終了のチャイムで、一年生から五年生は、このチャイムと同時に外へ出て、六年生を見送ってくれる合図だ。

 それと同時に、このチャイムは、私達への合図にもなっている。

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