ウェディング・チャイム
 ちょっとむくれてそう言うと、甲賀先生もぶつぶつ言いながらコーヒーを飲んでいる。

「全く、どうでもいいところでいちゃもんつけるなよ。……それはともかく、何か保護者から要望あったか?」

 さっきとは打って変わって真剣な表情で聞かれたので、私も真面目に考えながら家庭環境調査票に書いたメモをめくって、話し始める。


「えっと、今日訪問したお宅で、両極端な要望があったんですよね。宿題を増やして欲しいっていうのと、減らして欲しいっていうお願いをされました」

「二組の宿題っていつも国語と算数のプリント、合わせて二枚だったよな?」

「そうです。だいたい三十分前後で終わる量にしているんですけれど、どうでしょう?」

 そう言って、ファイルしておいた今までの宿題を甲賀先生に見せた。

 ……相変わらず私と甲賀先生の机の間には、富士山のようなプリントの山がそびえているので、その山を越えてファイルを渡したのだけれど。

「ちょうどいいと思うぞ。多分あれだろ、増やして欲しいっていうのは、宿題以外の勉強をしない子どもの家で、減らして欲しいっていうのは、塾や習い事で時間のない家じゃないか?」

「大当たりです。放課後の時間の使い方がみんな違うので、一人ひとりに合わせた宿題にできれば一番いいんでしょうけれど」

「一人ひとりに合わせた宿題を作って、さらに採点するのは難しいぞ。他の仕事の手が回らなくなる恐れもあるから、二十人以上いるクラスではちょっとな……。宿題は一律に出すことで、個人の到達度を見たり、クラス全体の苦手な単元を把握できるっていう、一定の教育効果をあげられる訳だし、このままでいいと俺は思うよ」

 にっこり笑って、ファイルを戻してくれたので、ちょっとほっとした。

「でも……それだと全く要望に応えられませんよね。どうすれば両方の保護者が納得する宿題を出せますか?」

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