ウェディング・チャイム
~「で、今日訪問した家庭はどうだった?」~
「で、今日訪問した家庭はどうだった?」
今日もまた、職員室の味気ないグレーの椅子に腰かけて、メモを見つめながら話す内容を頭の中で整理する。
「えっとですね……」
家庭訪問三日目が無事終了して、いつものように職員室で甲賀先生に話を聞いてもらいながら休憩。
甲賀先生は少しネクタイを緩めて、リラックスした様子でコーヒーを飲んでいるけれど、また五軒分のお茶をご馳走になってしまった私は、もうお腹いっぱい。
スーツのボタンがきつくなったかも……なんていう圧迫感をお腹に感じつつ、本日の要望をまとめて伝える。
「まず一つ目……。橋本剛志君の保護者からのご要望ですけれど、給食中、正しい箸の持ち方を指導して欲しいそうです」
「箸!? 気づいた時に指導すればいいと思うけどさ、それ聞いて正直どう思った?」
「……三十人と一緒に食べてる中で、一人ひとりの箸の持ち方までチェックするのはちょっと無理です。自分もさっさと食べ終わって、給食おかわりジャンケンの審判をしなくちゃなりませんし」
食べ物の恨みは本当に恐ろしいので、誰かがズルをしたら即ケンカになる。
食べ盛りの子ども達にとって、特にデザートのジャンケンは真剣勝負。
無駄な争いごとを避けるために審判をするのも、担任の大事な仕事だったりする。
「そう、年間の食事回数はえっと……千九十五回、そのうち、箸を使う献立の給食回数なんて、せいぜい百回程度しかない。正しい箸の使い方を担任が口頭で指導した程度でマスターできるのなら、とっくに直ってると思うぞ」
「私もそうじゃないかな、と……。でも、ご家庭で指導してくださいっていうのは言いにくくて」
「わかるわかる。じゃあ、こうすればいい。矯正用の箸を給食中も使っていいですよって言う」
「伝えてみますけど、みんなの前で矯正箸を使うでしょうか?」
「給食中、恥ずかしくて使えないなら、自宅で頑張ってもらうしかない。できればもっと小さい頃に指導して欲しかったな。それじゃあ、次の懸案事項は?」
甲賀先生は面白そうに私の話を聞きながら、適切なアドバイスをくれたり、時には一緒に笑いながら、私の抱える懸案事項をさくさくと解決してくれる。