ウェディング・チャイム
多分ここで間違いないと思うけれど、表札が出ていないので自信がない。
最近、特に集合住宅に住んでいるお宅は、表札を掲げない場合も多い。
気持ちは解るけれど、できれば家庭訪問の時間だけは、紙に鉛筆書きでもいいから表札の場所にお名前を貼っておいて下さると助かります……などと思ったり。
表札のない家ほど、その家で間違いないかどうか手がかりを探すため、あちこちをじっくり見ることになってしまう。
傍から見たらまるで不審者かも知れない。
玄関前の子どもの自転車や、下のきょうだいが使っているらしいお砂場セットの名前をこっそりチェックしてからベルを鳴らすこともある。
絶対に怪しいけれど、どうか通報されませんように……。
「こんにちは。こちら、島倉さんのお宅でしょうか? 森が丘小学校の藤田です」
ドアが開いて、お母さんが出てきてくれた。よかった、この家で当たってた!
「お待ちしてました。どうぞ」
「失礼します。……紗絵ちゃんは今、どこにいますか?」
「お友達の舞花ちゃんの家です。多分奈々ちゃんも一緒だと思います」
……それから三十分後。
ちょっと長引いた家庭訪問を終え、学校へ戻っていつものようにトイレへ直行してから、甲賀先生に話を聞いてもらうことに。
「で、今日はどんな要望が出されたんだ?」
「まず、新山健太君の家からなんですけれど……」
「夜更かしの健太、だよな?」
「ええ、そうです。最近はちゃんと間に合うように登校していますけれど、今回はそれとは別の問題です。お友達が、日曜日なのに朝八時半過ぎに遊びに来るそうです」