ウェディング・チャイム
「うん、それでいいと思う。まさか学校から『通信禁止』なんて言えないだろ。情報のやり取りまで学校で規制できる訳がない」
「それを規制した方が問題になりますよね? 難しい世の中になっちゃいました……」
「そうだよな~。俺達が子どもの頃、こんな問題なかったし。昔の教員がちょっと羨ましくなるけど、しゃあないか。今はパソコンでお便りも成績処理も通信簿もつけられて、こっち方面では楽になってるはずなんだけど、ちっとも楽じゃない……」
甲賀先生がため息まじりに呟いた。
「すみません、私と一緒だと甲賀先生のお仕事は余計に増えますよね……」
こうやって話し合う時間も、甲賀先生のお仕事タイムを削っている訳だし。
「そんなことはないぞ。これは誰と学年組んでも同じ。担任同士でコミュニケーション取るのは当たり前だからさ。俺の悩み事聞いてもらうことだってあると思うから」
普段、ほぼ一方的に私ばかりが相談していたので、自分が相談される側になるなんて考えたこともなかったけれど、確かにそれもありだった。
「もしかして、甲賀先生も今、懸案事項をお持ちですか? 私で良ければ話してください!」
たまには聞き役になって、一緒に悩んでみたい!
「ん~、懸案事項か……。そうだな、そのうちゆっくり時間が取れたら、聞いてもらうよ」
「今じゃなくてもいいんですか?」
どんな案件かわからないけれど、早く手を打った方がいいんじゃないだろうか?
それとも、私では頼りなくて相談相手になれないのかな?
「……時間を置いてからの方が、きっといい答えを導き出してもらえると思うから」
そう言って、甲賀先生は私に笑いかけてから、コーヒーを飲みほした。