ウェディング・チャイム
放課後、職員室で深いため息をつきながら、コーヒーをひと口。
お砂糖をたっぷり入れたはずなのに、今日のコーヒーは苦いような気がする。
「ふ~ん。で、全員リレーはまず、最後までちゃんとフルメンバーで走れたことがない、と」
「……そうなんです。もう、勝ち負け以前の問題ですよね。どうしたらみんな、やる気になってくれるんだろう」
「子ども達だってにんげんだもの。それぞれやりたい子とやりたくない子がいて当然なのよ」
いつものように、職員室で甲賀先生に話を聞いてもらっていたら、今日はそこにたまたま通りかかった教頭先生も話に加わってくれた。
教頭先生は五十代女性でありながら、PTAのバレーボール大会では華麗なジャンプサーブを披露して会場を沸かせる、体育がご専門の素敵な管理職。
「うちのクラスはやりたくない子の率が異常に高いような気がします……。特に女子のあのけだるい雰囲気は何とかならないものでしょうか」
「あ~、わかるわ。一生懸命頑張るのがカッコ悪いと思っちゃうようなお年頃なのよね。……ところで藤田先生のクラスの中心になる子って、森川君でしょ?」
……さすが教頭先生。うちのクラスの陰のリーダー格が森川稜君だとあっさり見抜いている。
彼は何でもよくできるタイプの男子で、人望もあるけれど、目立つことが好きではないらしく、児童会選挙などには出たことがない。
「おっしゃる通り、森川稜君ですね。ただ、彼はあまり表に出てこないんです」
「だからこそ、彼をめいっぱい活躍させましょう! 彼が動けば、みんなもやる気を出すはずです。特に、森川君に憧れている女子なんかは、彼のために一生懸命走るかも知れない。藤田先生も女子だったら、そのあたりの気持ちはわかるでしょう?」
教頭先生は私の肩をポンと叩いて、意味ありげにふふふ、と笑って戻られた。