ウェディング・チャイム
普段の授業中よりみんな真剣に、話し合いに参加している。
結局、走る順番はそれぞれに希望を取りつつ、隣のクラスの走る順番も考慮したものになった。
希望が重なった時は、稜君が前後の走者を見ながら『速い人』を間に混ぜるよう、調節している。
「では、バトンゾーンの使い方ですが……」
稜君が黒板にコースとバトンゾーンを描いて、みんなに説明する。
「女子は保護者席側からスタート、男子は校舎側からスタートです。速い人はバトンゾーンのギリギリ前まで寄って受け取り、なるべく奥の方まで走ってから渡します。速い人が長距離を走るようにしてください」
「あ~、そういうことか! 速い奴がギリギリまで長く走って、他の奴の距離を減らしてやればいいんだな?」
さっき稜君が走者の順番を調節していたのはこのためだということが、クラスのみんなにもわかったらしい。
この小学校は、各クラス男女各二名の速い子しか紅白リレーの選手になれないため、これまでリレーの経験がない子どもが多い。
そこで、わが子がリレーする姿を小学校生活の最後に見たい、という保護者の希望で、六年生の団体種目がこれに決まり、伝統種目となっているらしい。
この学級会での様子を見て、バトンパスも、バトンゾーンの使い方も初めて知る子が多いということを、私は初めて知った。
『当たり前』だと私が思っていることは、この子達にとっては決して『当たり前』ではないということを、忘れていたのかも知れない。
六年生だからもう、大抵のことは解っているつもりで話していたけれど、違うんだ。
子ども達が真剣に話し合う様子を見ながら、私の方が子ども達から教わる機会が多いと思い知らされた。