ウェディング・チャイム
そして五時間目。
本番で使用するのと同じ、北海道を本拠地とする球団の有名選手から寄贈された通称『イナバトン』を手に、第一走者二人がスタートラインに並んでいる。
私と甲賀先生は子ども達を整列させてから、スタートラインで待機。
「で、作戦会議はうまくいったのか?」
スターター用のピストルに紙雷管をセットしながら、甲賀先生は余裕ありげに尋ねた。
「もちろんです。もう今までの二組じゃないですからねっ!」
「ふーん。それはまた、楽しみだな。じゃあ、お手並み拝見といくか」
「望むところです!」
睨み合う私達と同じように、子ども達もすぐ隣に並ぶ、自分と一緒に走る相手を意識して火花を散らしている。
「位置について」
運動会のスタートと同じように、笛の合図で用意、それから……。
バーン!! ピストルの音がグラウンドに響き、二人が同時にスタート。
次々に渡されるバトン、全力で走る子ども達、大きな声援、大接戦。
やや二組が遅れているけれど、うちのアンカーは学年一速い健太君だから、このまま行けばもしかすると逆転勝ちできるかも知れない!
誰もがそう思ったその時、アンカーの手前で、白いバトンがぽとりと地面に落ちた。
悲鳴のような声が響く中、健太君が悔しそうにバトンを拾い上げて走る。
誇らしげな一組の子ども達と、落胆した二組の子ども達の顔が、私の目に焼き付いた……。