ウェディング・チャイム
……ついに迎えた運動会当日の朝。
この日まで、体育の時間以外にも休み時間や放課後、自主的に練習した子ども達の応援をしながら、私は大きな不安を抱えていた。
負けたら、今まで以上の無気力なクラスになってしまうんじゃないだろうか、と。
稜君は予想以上に頑張ってくれたと思う。
クラスのブレーンとして、最後まで作戦を練りながら微調整を繰り返していた。
彼自身もアンカーのふたつ前、つまり男子で二番目に速いメンバーとして、欠席の子の代役を務めつつ、うまく周りをまとめている。
目に見える結果を出そうと、タイムを計測しながら、徐々に良い記録を出すことでみんなのモチベーションを維持するなど、私以上の策士っぷりに驚いた。
アンカーの健太君は、朝が弱くて心配だったけれど、リレーの朝練には遅刻することなく参加して、速く走るコツやバトンパスのポイントをみんなに伝授していた。
あのけだるい雰囲気を放っていた女子も、一組に僅差で敗れた時からは本気モードになり、金切り声をあげてぼんやり男子のお尻に火をつけているのがちょっとほほえましい。
実は、舞花ちゃんと里香ちゃん、稜君のことが好きなのだ。
そしておそらく、紗絵ちゃんも。
だから奈々ちゃんと舞花ちゃんの二人は、ゲーム機の通信で紗絵ちゃんの悪口を言ったり、里香ちゃんの事を「学級代表だからって出しゃばってる」なんていう陰口をたたいたりもする。
だけど今回は、ブレーンの稜君を助けるために、みんなで協力しようという気持ちになっているようだった。
大好きな人にいいところを見せたくて必死になっている女の子達は、本当に可愛いと思うけれど、稜君はそれに気付いているのかいないのか……。
運動会のプログラムは順調に進み、お昼の休憩時間となった。
子ども達と保護者がグラウンドでご馳走を食べている間、私達は注文しておいた仕出しのお弁当を職員室で食べる。
その休憩時間の後半十五分、コーヒーを飲みながら窓の外を見たら、うちのクラスの子ども達が集まっているのが見えた。
……なんと職員駐車場の隅っこで自主的にバトンパスの練習をしていたのだった。