ウェディング・チャイム

~おごってもらうだけのはずだったのに~

 
~おごってもらうだけのはずだったのに~


 日曜の朝九時ちょうどに学校で待ち合わせだったんだけれど、お互いの車から降りて、おはようの次に言われたのが……。

「あー……言い忘れてた。ゴメン、デニムはちょっと……。悪いけど、着替えてもらえないか?」

「え? あ、ダメ、でしたか……。すみません。家で着替えてきますから、待っててください」

「藤田ちゃんの自宅まで後ろを付いて行くから、着替えが終わったら俺の車に乗って」


 内心、ラーメン屋さんにドレスコードなんてあるのだろうか、なんてちょっとびっくりしながらも、今日の自分の服装に苦笑いした。

 たかがラーメンだし、別にデートじゃないんだから何でもいいや、と思ったけれど、仮にも上司におごってもらうのだから、もうちょっと可愛げのある恰好をしてくれば良かったのかも。

 ちょっと自分のガサツさに落ち込みつつ、甲賀先生の服装を見た。

 スーツではないけれど、白いシャツにテーラードカラーの黒いジャケット、オフホワイトのチノパンという、爽やかできちんとしたスタイル。

 しかも今日は細めの黒縁眼鏡。

 そういえば以前『休みの日はコンタクトを使わないようにしている』って言ってたっけ。

 私もコンタクト愛用だけれど、確かに毎日使い続けていて目に負担がかかっているかも、と思うこともある。

 スタイルの良さと、黙っていれば理知的に見えるその表情。

 普段とのギャップに驚きつつ、こんなに童顔で小粒な自分が隣にいていいんだろうかと、ちょっと凹んだ。


 学校から家まで戻り、アパートで着替える。

 五分袖の白いブラウスに、膝丈のフレアースカート。一応、ジャケットも持っていくことに。

 ……これなら、甲賀先生の『ドレスコード』に引っかからない、よね?

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