ウェディング・チャイム
待っていてくれた甲賀先生の車のドアを開けると、すぐに言われた。
「お、可愛い。今日は藤田ちゃんの私服姿が二回も見られて、得した気分だな」
「またそんな事を……お世辞でも一応嬉しいです。ところで、どうしてデニムはダメなんですか?」
シートベルトを着けながら聞いてみると、甲賀先生が笑いながら教えてくれた。
「俺達の仕事って、服装はそんなに厳しくないよな。もちろん、出張とか行事とか、お堅い場面では絶対スーツだけどさ」
「はい。みんないざという時のために、更衣室のロッカーにスーツを置いてたりしますよね」
最近特に運動会練習が続いていたので、教員はジャージ率が高い。
ジャージで出勤した日に、午後から急な外勤が入ったり、来客があるなんていう時に困るので、私もスーツは更衣室に用意してある。
「ただし、デニムとか迷彩柄、スカルやキラキラ過ぎるのはちょっと……っていうのも解るだろ」
「もちろんです。でも今日はラーメンを食べに行くだけ、ですよね?」
「ふふふ。甘いな藤田ちゃん! 今日は何の日だ?」
「え? 今日、ですか?」
「札幌で今、何をやってる?」
「あっ! YOSAKOIソーラン祭り!」
「そうだ。そして今日の午前中は、ジュニアチームが集合して、大通の○○デパート前で踊るんだよ。うちの学校の児童も結構参加しているはずだから、応援しに行くぞ」
「えええっ!? それで、ナビの目的地が札幌になってるんですか?」
「当たり。ま、俺としては藤田ちゃんとの初デート、な~んていうつもりで、余計な詮索をされないためのグッズも用意してある。だから『デニム禁止令』を出した訳」
何ですか、初デートって。
また訳のわからない冗談を聞き流しつつ、その計画にはなるほどと頷いた。
六学年の担任二人がわざわざ小樽から応援に駆け付けているところを保護者にアピールできて、なおかつ二人でラーメン屋さんにいても、変に勘ぐられることもない、と。
信号待ちの間に、甲賀先生が助手席側に手を伸ばしてきた。
一瞬身構えた私を見てかすかに笑ったあと、グローブボックスから出してくれたものは……。
巡視や学校行事の時に使う『森が丘小・PTA』と書かれた、小豆色の腕章だった……。