ウェディング・チャイム
「これ……仕事ですか?」
小豆色……そう、間違ってもワインレッドなどというお洒落な言い方は似つかわしくない、くたびれた腕章を見ながら聞いてみた。
「趣味と仕事を一緒にしてみました、なんてね。可愛い子ども達が学校の外で、生き生きと活動している様子が見られて、さらにその腕章をつけていたら、うちの学校はもちろん、他の学校の児童生徒の問題行動も抑制できるんだ」
「なるほど……。確かに、巡視用の腕章をつけて歩くだけで、警戒されますよね」
「教え子の様子が見られて、不良行為の抑制ができて、なおかつ藤田ちゃんとふたりで堂々と札幌の街を歩ける! 最高のアイテムだと思わないか?」
「まあ、そう、かも知れません。ダサいけど気にしなきゃいいんですから」
「……ふたりでそれを付けて歩くことについてはスルーかよ。まあいいけど。さて、中心部からちょっと離れた駐車場に停めるから、あと一時間弱で着くかな」
小樽の市街地から海沿いに走り、時々見える砂浜に夏を感じながら快適なドライブ。
甲賀先生の子ども達との面白いやりとりや、保護者から毎回余計な縁結びを申し出られるといった愉快な話に笑い、時々ツッコミを入れているうちに、時計台が描かれた『札幌市』の看板が見えた。
手稲区の立体駐車場に車を停めて、そこからは地下鉄で移動するらしい。
車はぐるぐると上の階まで進んでいく。
エンジンが止まり、音楽も鳴りやむと、薄暗い車内はしいんと静まり返る。
前を見ると、フロントガラスには私と甲賀先生の姿が映っていた。
童顔で、ちっちゃくて六年生に混ざっても違和感のない、助手席の私。
若く見えるけれど立派な大人で、車の天井が狭く感じるほど大きい、運転席の甲賀先生。
フロントガラスに映った自分の姿を見て、急に男の人とふたりきりだったと意識してしまう。