ウェディング・チャイム
「俺も休憩しようっと。ふぁ~、疲れた」

 甲賀先生が大きなあくびをひとつ。

 見ていた私にもそれがうつり、同じくふぁ~っと声を出したら笑われた。

「コーヒー飲んだら教室設営に行くぞ。学年通信作ってもらったから、体で払ってやるよ」

 いつも冗談が多い甲賀先生ならではのその表現に思わず私も笑ってしまう。

「甲賀先生の体で払ってもらえるんですか? 助かります! 通信作って良かった~」


 猫舌の私がコーヒーを飲み終えるのを待ってもらい、三階の六年生教室へ向かった。

 同じ階には五年生の教室と児童会室、通級教室と少人数教室、それに空き教室がひとつ。

 かつてこの学校は一学年四クラスあったけれど、少子化の影響で児童数が約三分の一に減ってしまった。

 ただでさえ寂しい三階校舎だけれど、子どもの姿がなくなる長期休業中は寂しすぎて怖いほど。

 作業する教室だけ暖房を入れて、冷えきった廊下を甲賀先生とふたりで歩く。

「先に教室で作業を始めて欲しい。俺もちょっと自分の教室にモノを運ぶから」

「はい、それじゃあ、お待ちしていますね」


 まだ殺風景な教室に、ひとりでいるのは結構寂しい。

 甲賀先生、早く来てくれないかな、などと思いつつ、さっきの会話を思い出してくすっと笑う。

 ここに六年二組の子ども達三十人が座り、賑やかに学校生活を送る様子を思い浮かべながら、ロッカーと机と椅子に名前シールを貼る作業を開始した。

 
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