ウェディング・チャイム
「どれどれ。……うん、成績の方はこれでいいと思う。もし、保護者から『どうしてうちの子の成績はこうなっているんですか?』って聞かれたとして、ちゃんと答えられるだけの資料はあるか?」
「はい、大丈夫です。全部閻魔帳に記録してあります」
「それならこっちはOKだ。問題は所見欄だな……」
甲賀先生が、所見欄のデータを見ながら厳しい顔をした。
「ダメ、ですか?」
「う~ん、何て言うかさ……自分の言葉で語ってないんだよ。どっかの本や所見参考サイトから引っ張って来たような感じっていうのかな? 一人ひとりのエピソードが薄くて、誰にでも当てはまりそうな感じの、あっさりとした文章だな」
ぎくっ! さすが学年主任。お見通しです……。
顔色が変わった私を見て、やっぱり、という表情でため息をつかれてしまった。
「そんな感じの所見をもらって嬉しいか? あたりさわりのない綺麗な文章で、いいところばかりが書かれているように見えるけど。でもそれは、その子どものためだけに書かれた、担任・藤田先生オリジナルの文章と胸を張って言えるのか?」
……参考にした所見の記入例の本には、色々なタイプの子どもに合わせた文章が載っていて、私はそれを元に書いていた。
一学期の頑張りと、二学期に向けて期待する文章を。
でも、この書き方だと、全国各地に同じような文章で名前だけを変えた所見を持つ子どもがいるかも知れない。
そのことにようやく気づいた私は、青くなって甲賀先生にお願いした。
「明日の締切までに、全部書き直してきます! 必ず間に合わせますから、待っていてください!」
「三十人だぞ、一晩で間に合うのか?」