ウェディング・チャイム
自宅へ戻ってからも、パソコンに向かって必死に所見を打ち込んだ。
綺麗な文章ではないけれど、自分の言葉で、担任としての想いが子どもにしっかり伝わるような文章を。
やっと男子の半分が終わった十時過ぎ、充電中だったスマホが鳴った。
この音は電話の着信。
今、いい調子で進んでいるので出たくないな、なんて思ったけれど、念のため相手を確認すると。
スマホの画面に出てきた名前は甲賀先生。
これは無視する訳にはいかない。
「もしもし」
『どうだ、はかどってるか?』
……私の仕事状況を確認するために、わざわざ電話をくれたんだ。
今まで、甲賀先生から電話がかかってきた事は、たったの一度しかない。しかもそれは、遠足が雨天で延期された時の職員連絡網。
「おかげさまで、やっと男子の半分が終わりました」
『あと四分の三か……このペースだと本当に徹夜だな』
「……そうですね。でも、書けるネタがたくさん思い浮かぶようになってきました!」
『それはきっと、所見の神様が降臨してるんだよ。そういう時にタイミングを逃さず書くと、かなり量も質もいい感じで仕事できるから頑張れ。俺も今夜頑張るからさ』
「甲賀先生も、まだだったんですか?」
『まあね。ちょっと色々あって出遅れた。俺もあと男子半分と女子が丸ごと残ってる』