ウェディング・チャイム
この校舎は、築三十年近く経過していることもあり、結構寒い。
なかなか暖まらない教室で、寒さに震えながらのシール貼り作業は、手がかじかんでスムーズに進まない。
やっと全てのシールを貼り終わったちょうどその時、教室のドアをノックする音が響いた。
「はい」
「さて、何をして欲しい?」
にやっと笑いながら、教室へ入って来た甲賀先生に、私は遠慮せずにどんどんお願いする。
「まず、学校教育目標をこっちに貼って欲しいんです。それから、発表のしかたのポスターをここに。あとは……」
次々に掲示物の張り替えをお願いする私に対して、甲賀先生は嫌な顔ひとつせず作業を進めてくれた。
「そのちっちゃな身体だと大変だもんな。ところで藤田ちゃんは身長どのくらい?」
あまり言いたくないけれど、私は小六女子の平均身長より低い。
「……百五十二ですけど。甲賀先生は?」
「百八十二だよ。俺達、ものさし一つ分違うんだな。トシはちょうど十違うし。そう考えると、藤田ちゃんがちっちゃくて可愛いって思えるぞ」
三十センチも違うのであれば、きっと見えている世界も違うだろうな、と想像した。
私が百二十二センチの小二女子になったのと同じくらい、違って見えるんだろうな、なんて。
「甲賀先生が羨ましいです。私も大人になったら大きくなるはずって思ってたのに、中一で身長が止まっちゃったんですよ」
可愛い、なんて言われて照れくさいので、そこには触れずにいたというのに。