ウェディング・チャイム
「だって、私達の仕事って超保守的ですから。カラーリングもネイルアートもカラコンも封印しようって決めたんです」
『金髪にならない程度なら割とみんなやってるぞ、女性教員は。無理に我慢しなくてもいいとは思うけれど……でも、そういう考え方、俺は気に入った! ワケあり保守だもんな、俺達って』
「そうなんですよ~。でも、夏休み中だけカラーリングしたり、ネイルアートするのって、何だか中高生みたいじゃないですか。めんどくさいし虚しいので、私はやっぱりこのままでいいやって」
『うんうん、藤田ちゃんはそのままがいい! ただ、ひとつだけ残念なことがあるんだけど……』
「え、何ですか?」
『怒らない?』
「内容によっては怒りますけど、なるべく冷静に聞きますから言ってください」
『じゃあ、はっきり言わせてもらう。藤田ちゃんの水着、何だあれはっ! 保守的な教員の姿にこだわるなら、競泳用だろ! ウェットスーツかと思ったぞ! 期待してたのに!』
「勝手に期待しないでください! だって、うちの学校のプールって日当たりいいじゃないですか。ラッシュガード着てないと、すっごく日焼けするんですよ!」
『え~っ! ケチ。でも、普通の水着は持ってるよな? グァムに行ったって話、前に聞いたし』
「持ってますけど、学校のプールでは着られません!」
『じゃあ、競泳用でもいいよ。よし、これで夏休みのプール当番での楽しみがひとつ増えた。それを励みに所見頑張るぞ』
「……励みになるほどの効果は期待しないでください。甲賀さんみたいに腹筋割れてませんし」
『へ~。意外と見られてたんだ、俺。ますます張り切って所見書く気力が沸いた! じゃあそういう事で、朝まで頑張れよ』
「あ、はい、朝までには終わらせて、シャワー浴びて学校へ行きますから」
ほんの数分しゃべっただけだったけれど、眠気覚ましにもなって、私もまた頑張る気力が沸いてきた。
甲賀先生と話していると、いつも楽しくてやる気が出る。
このまま朝まで頑張って、甲賀先生の期待する『自分の言葉で書いた文章』を作り上げたい。
迷惑をかけ続けてきた学年主任のために今私ができることは、締切をちゃんと守って書類を提出することだけ、だから。