ウェディング・チャイム
ぐるぐる目が回ってきたけれど、なかなかその場所から離れることができない。
これ以上ここにいると、本気で酔いつぶれてしまうと思った私は、化粧ポーチを手に、さりげなくトイレへ行こうとした。
立ち上がって壁沿いに歩きつつ、何とか宴会場の外へ。事務官の吸うタバコの煙からも逃れることができた。
ほっとしてスリッパを履こうとした時、急にぐるりと視界が回って立っていられなくなった私は、その場に座り込んだ。
すべすべした木の床が、冷たくて気持ちいい。ああもう、このまま私は……。
「藤田ちゃん! ここで寝るな! 寝たら死ぬぞ!」
「……何だかとても眠いんだ、パトラッシュ……」
「おい、そんなネタ呟いてる余裕があるなら起きろ!」
「……起きてもいいけどもう飲めません……」
「知ってる。もう、無理するな。帰るぞ」
気が付いたら、タクシーの中だった。
甲賀先生が運転手さんに話しかけているのが聞こえる。
「そこの信号を左です。……右にコンビニがありますよね、通り越したらすぐ右折です。……ここで結構です。ちょっと待っていて下さい。八木先生、すいませんが、彼女のバッグの中から、家の鍵を探してください」
……八木先生? あ、私の隣に座っているのが八木先生で、今、バッグの内ポケットから鍵を出してくれているみたい。
だんだん、頭がはっきりしてきた。
助手席に座っていた甲賀先生がタクシーから降りて、私が座っている側のドアからのぞき込んでいる。
「藤田ちゃん、家に着いたぞ。起きて歩けるか?」
「……多分、大丈夫です」
「はい、バッグと鍵。これは甲賀先生に預けるから。ところで甲賀先生……」
八木先生と甲賀先生が何やら私の頭上でごにょごにょと話している。
八木先生が甲賀先生に荷物を渡したところを見ると、やっぱり私は今、泥酔しているらしい。