ウェディング・チャイム

「降りるぞ。つかまって」

 甲賀先生から差し出された腕にもたれかかるようにして、タクシーから降りた。

 ふわふわしていて、何だかとってもいい気持ち。

「ほら、しっかり歩け!」

 頭では理解できるけれど、ふにゃふにゃの体には力が入らないのですよ、甲賀先生。

「歩けないです……ごめんなさい」

「……酔ってる時は素直だな」

「そうですか~? ふふふ……」


 ああ、気持ちが良くてふわふわする。

 何だかとっても背中が心地よくて安心できる。

 足が地面に着いていないような感覚、なのに前に進んでいる?


「あれれ?」

「落ちたくなかったら動くなよ。あと十メートルくらいで玄関に着くから」

「は~い」


 返事をしてからよく自分の足を見たら、やっぱり浮いている?

 今、自分の背後から甲賀先生の声が響いてきたみたいだし。

 ということは、私、後ろから抱きかかえられて運ばれているらしい!


「全く、手のかかるパートナーだ。……だけどホント、よくこの一学期、頑張ったな」

「……」

 この状況で、ねぎらいの言葉をかけてもらっても、どう返事をして良いのやら。

「おい、寝てるのか?」

「……」

 自分の置かれている……いや、置かれてるじゃなくて、むしろ持ち上げられているこの状況を考えたら、急激に酔いが冷めてきた!

「せっかくの美味しいシチュエーションだっていうのに、寝てるし酔っぱらってるし八木先生にしっかり監視されてるし……」

 な、何ですか?

「……我ながらホントいい奴だよな~、俺ってさ」

 ええもう、甲賀先生ってホントいい人です。心の中で大きく頷いた。

 ゆっくりと前進していたけれど、やっと我が家の玄関にたどり着く。

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