ウェディング・チャイム

 教室のワックスがけ、児童用パソコンの点検、新しく配架された図書の整備に傷んだ本の修復、もちろん教材研究に、夏休みならではの充実した各種研修会へ参加したり。

 ……だけど、お上からの指導もあるので、この時期にまとめて年休を消化する先生ももちろん多い。

 子ども達がいる間は極力休みを取りたくないので、どうしても夏休みと冬休みにまとめて取らないと、お上が目指す『年休消化率』の基準をクリアできないから。

 という訳で、今は地味な仕事をせっせとこなしつつ、後半のお盆休みを楽しみにしているのだけれど……。


「この時期、太るのよね~。普段、給食なんて六百キロカロリー前後でしょ? ゆっくりランチを楽しめるのは嬉しいけれど、休み明けが怖いわ~」

「そうですよね~。……明日、プール当番なのに、水着着るのが怖いですよ~」


 八木先生と一緒に、学校の近くのレストランでパスタランチを食べつつ、これって何キロカロリーなんだろうかと考えてしまいそうになった。

 でも怖いのでこれ以上カロリー計算するのはやめよう。

「あら、藤田先生は何の心配もいらないでしょ?」

「そんなことないです! あ~あ、明日がちょっと憂鬱だなぁ」

「あ、わかった! 甲賀先生に見られるから、じゃない?」

「いや、そういう訳でもないですけれど……」


 図星だったけれど、素直に認めたくない私は、ごまかすようにパスタを慌てて口に入れた。すると、ペペロンチーノのトウガラシがもろに喉の奥へ入った。

「ごほっ、ごほっ……辛っ!」

「あらら、大丈夫? でもその慌てっぷりがやっぱり怪しいわ~」

 うふふ、と笑う八木先生が、そのあと信じられないことを教えてくれた。

「今だから言うけど、六年二組の担任、私も打診されていたの。大変な状況だっていうのは解っていたから、管理職には『誰も引き受け手がいなかったら、私がやります』って伝えていたのよ」

「え?」

「でもね、あなたが引き受けてくれたでしょ? それを知って、甲賀先生は本当に嬉しそうだったわ。『与えられた仕事を、途中で放棄しないで済んだ』ってね」
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