ウェディング・チャイム
「それって……」
「解るでしょ? 私と甲賀先生が学年を組むとすれば、必然的に年上の私が学年主任になっちゃう。甲賀先生は途中で主任を降ろされた形になる上、私みたいな口うるさいおばちゃんと一緒に一年間頑張らなきゃならないの」
「……けほっ」
何と返事をして良いのかちょっと困るような話の流れだったので、私はまだ咳が止まらないフリをして、水を飲んだ。
そういえば四月に、私が六年二組の担任を引き受けたことを『大歓迎』って言って、理由は『話すと業務に支障が出そうな大人の事情』だからと、教えてくれなかった。
「甲賀先生はあなたの事、お気に入りだったからね~」
「……どうして、そう思うのですか?」
甲賀先生自身も、たまに『気に入った』って言ってくれることがあるけれど、それはたまたまノリが良かったからとか、その程度だと思う。
「何ていうのかな、あなたの言動が可愛いんでしょうね。頑張ってる感じが伝わってきて、応援したくなっちゃうんじゃない? 彼、元々面倒見がいいタイプだけど、今はさらにあなたを育てるのに夢中な感じだから」
確かに、いつも応援、というかフォローされているけれど、それは私があまりにも頼りないせいだ。
「……喜んでいいのか、もっとしっかりしなきゃいけないのか、微妙な感じですね」
「あら、素直に喜んで甘えたらいいのよ」
……甘えて欲しい、というのは、甲賀先生からも言われていたセリフだったので、やっぱり私は傍から見ると意地っ張りなんだな、と改めて感じた。
「実は、あなたの前の担任と甲賀先生、表面上は仲良くしていたけれど、結構ピリピリしていたみたい。甲賀先生はその反省もあって、あなたにはかなり気を遣ってると思うわ」
「そう、だったんですか。知りませんでした」
「彼女と甲賀先生は方針が合わなかったらしいの。甲賀先生は院卒で、中学校教員が振り出しだったから、彼女の方が小学校教員としての勤務年数は長かったわ。それで色々と張り合うようにやっていたけれど、クラス経営があの調子だったから……」
八木先生は言葉を濁したけれど、何を言いたいのかものすごくよくわかる。
それで今、後を引き継いだ私と、学年主任の二人で苦労している訳ね、と心の中で呟く。