ウェディング・チャイム
「甲賀先生としては、あなたのようなタイプと学年を組んだ方が、ずっとやりやすいはず。だから嬉しかったんでしょうね」
「そう、だといいんですけれど」
「これ以上、他の学年や先生方に迷惑をかけたくないっていう気持ちもあったでしょうけれど、最終的な甲賀先生の狙いは、あなたが六年二組の担任を引き受けてくれることだった」
その断定的な言い方にびっくりしつつ、私が首をかしげていると。
「この間の飲み会で、何か言われなかった?」
「何か、ですか? 言われたような、言われていないような……」
「もしかして、酔っぱらってて覚えてない、とか?」
一瞬、呆れたような顔をされて、あらあら、と笑われてしまった。
何か……言われたかも知れない。そう、タクシーから降りて、私の家……おそらくベッドまで運んでくれたのは甲賀先生だから。
『続きは、また今度』と書かれたメモを眺めては、何の続きだったのか思い出そうとするけれど。
残念ながらほとんど覚えていなかった私は、八木先生の追及にたじたじになりつつ、頷くしかできなかった。
あの夜から、何となく甲賀先生と話す時も身構えてしまう。よくわからないけれど、きっと私は何かをやらかしているという後ろめたさから。
それなのに、甲賀先生もあの夜の事については、一切触れない。
もっとも、職員室で話せるような事でもなかっただろうし。
何となく、避けられているような気もしていたほど。お昼休みだって、甲賀先生は渋谷先生と二人で先に行ってしまい、私と八木先生の二人だけでご飯を食べている。
もし、顔も見たくないと思われるようなひどいことをやらかしたのだとしたら、謝らなくてはならないのに、肝心な『何の続き』なのかを忘れてしまっていて、今更聞けないでいる。
こんな調子で、明日のプール当番は大丈夫なのだろうか。