ウェディング・チャイム
甲賀先生はいつだって、私に優しかった。
迷惑をかけてばかりの私を、あたたかくフォローしてくれる、頼れる学年主任。
毎回冗談まじりに私を褒めて伸ばそうとしてくれているのも、甲賀先生は前任者とうまくいかなかった反省の上、私を上手にのせて育てようとしているから。
私をパートナーにしたがっていた理由も、何も知らない私を育てる方が、ライバル視されたり口を出されたりする相手よりいいと考えたからではないだろうか。
だとしたら、それはパートナーではなく、単なるスタッフだ。
一緒に考えて、より良い道を共に進もうと協力できる、お互いを信頼しあえる間柄にはなっていない。
そうなれない一番の原因は、私の未熟さと、素直に教えを乞うことができない頑固さにあるのかも知れない。
だから、甲賀先生にも八木先生にも『甘えなさい』と言われるんだ、きっと。
これでは教育実習生と私、一体どこが違うというのだろう。
大学を出てから二年間、私は何をしてきたのだろうか。
一番信頼しなくてはいけない学年主任が、今はとても遠く感じられて、胸の奥が軋みはじめる。
仲睦まじく会話している甲賀先生と大崎さんを見ているのが辛い。
恩師と教え子であり、指導教諭と実習生なのだから、当たり前なのに。
素直に喜んで見られない醜い心が、嫉妬でありやきもちだという事実を、どうしても認めたくなかった。
だけど、大崎さんと会話しながらも、一瞬こっちを向いた甲賀先生を見た途端、強烈にそれを自覚して、同時にあの夜のことを思い出した。