ウェディング・チャイム
『甲賀先生は、どうでもいい奴じゃありません。頼れる上司で……憧れの先生で……』
『ただの同僚?』
甲賀先生に問われて首を振ったけれど、その続きを言わないまま、私はトイレに駆け込んだ。
もちろん、気持ち悪かったというのは本当だけれど、それを言い訳に逃げた。
だって、認めるのが怖かったから。
こんな私が甲賀先生に惹かれても、きっとうまくいかない。
失敗する位なら、諦める方がいい。
諦めて、ずっとひとりのままでも生きていくことが可能で、我が子は無理でも多くの子どもに触れられる仕事を選んだのだから。
引き締まった大きな身体に、人懐っこい爽やかな笑顔を浮かべた甲賀先生と、同性から見ても非の打ち所がない、魅惑的なビキニ姿の大崎さんは、とてもバランスの取れたお似合いの二人に見える。
小さな身体は母親譲り、頑固な性格は父親譲りの私は、ただ黙って視線をプールに移した。
自分の姿が水面に映っている。
ビキニの彼女と並んだら、きっと私の方がずっと年下に見えるに違いない。
休憩時間の終わりを知らせるチャイムが鳴り、プール全体に子ども達の歓声が響き渡る。
私のクラスの子ども達も数人いて、彼らが無邪気に遊ぶ様子を確認しながら、低学年プールの監視を続けた。
十時五十分の休憩時間は、そっとプールから離れて更衣室の点検をして、甲賀先生と大崎さんの様子を見ないようにした。
でも、一番見たくなかったのは、自分の中の醜い嫉妬心だった。
こんな気持ちを抱えたまま昼休みになってしまい、朝、張り切って用意してきたものをどうすべきか、頭も一緒に抱えることになった。