ウェディング・チャイム
 
 お昼休みになった。

 大崎さんはまた、甲賀先生に何か話しかけてから、ひらひらと手を振って女子更衣室へ行ったようだった。

 全員がプールから出て着替えるまでに結構時間がかかるので、私達の休憩時間は実質三十分弱しかない。

 職員室への移動時間も考えると本当にごくわずかで、コンビニへ買い物に行くこともできないため、今日はお弁当を作ってきた。

 おにぎりとおかずが少しと野菜ジュース。

 豪華なお弁当を作っても、食べる時間がないのでこれで十分。

 いや、私には十分だけど……。


 そんなことを考えつつ、女子更衣室の点検をしながら着替えて、プール入口で待っている甲賀先生に報告する。

「全員、出ました。忘れ物もありませんでした」

「男子も大丈夫。黒いゴーグルの忘れ物がひとつ届いてたから、もし問い合わせがあったら取りに来てって伝えてもらえるか?」

「はい」

「じゃあ、時間もないし、さっさと職員室に戻ってカップラーメンだな。確か俺の備蓄ラーメンがあと二つ残ってたはずなんだ。良かったら藤田ちゃんも食うか?」

 そう言ってプールの鍵を閉めたので、慌てて言った。

「あの、こうなるだろうと思って、お弁当作って来たんです。良かったら一緒に食べませんか?」

 すると、満面の笑みでこっちを振り向いた。

「マジで!? うわ~、有難い! 実は朝飯抜きで腹ペコだったんだ」

「あまり期待しないでくださいね!」

 慌ててそう付け足すと、すました顔でこう返してきた。

「藤田ちゃんはいつも俺の期待以上だけどな」

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