ウェディング・チャイム

「嘘です! 甲賀先生はいつもおだててばっかり。食べてがっかりしても知りませんよ?」

「だから、そんなに自分を卑下するなって。素直に喜んでおけばいいよ」

 くすっと笑って、それから私の先を歩いていく。

 どうやら今は、避けられてはいないらしいのでほっとした。

 
 職員室へ戻った。

 こちらもちょうど昼休みなので、職員室には誰もいない。

 事務官はいつものように事務室で愛妻弁当を食べているはず。

 糖尿病で食事制限があるから、外食ではなくお弁当持参だと、この間の飲み会で聞いたっけ。


「こっちで食べようか」

 甲賀先生が職員室の端にある応接セットのソファを指さした。

 手を洗い、お弁当箱をテーブルの上に置いたら、既にソファで甲賀先生がスタンバイしている。

「……どうぞお召し上がりください」

「おおおっ! おにぎりに顔文字!」

「海苔をこんな風にカットするグッズがあるんですよ」

 今日のおにぎりは中身によって顔を変えてみたので、どの顔に何が入っているのかを説明。

 すると、甲賀先生はあっという間に全種類食べてしまった。すごい食欲にびっくり。

「ザンギ、もらってもいい?」

「どうぞどうぞ。おかずも遠慮しないで取ってくださいね」

「サンキュ。やっぱりから揚げとか竜田揚げよりもザンギだよな~。北海道のソウルフード! 俺、大学時代内地にいたから、時々無性にザンギと焼きそば弁当が食いたくなったんだよな~」

「甲賀先生は学芸大でしたっけ?」

「そう。六年いたよ。それからこっちの中学校で採用されたんだ」

「……さっきのビキニの子、その頃の教え子だったんですよね」

 おそるおそる、聞いてみた。

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