ウェディング・チャイム
いつもながら甲賀先生はとても良く食べる。
目の前にあったスタミナ定食が、綺麗に消えていた。
私の手元にはまだ、手つかずの茶碗蒸しとサラダが残っている。これでもご飯は甲賀先生に半分食べてもらったのだけれど。
「お腹、苦しいです……。甲賀先生、茶わん蒸し食べて手伝ってください」
器とスプーンを渡すと
「いいのか? ここの茶碗蒸し、美味いんだぞ~。せめてひと口だけでも食べてみるといい」
そう言って、茶碗蒸しをスプーンですくって、私に差し出した。
「はい、あ~ん」
「ちょ、ちょっとそれはっ!」
「何で? 俺の食べかけをもらうより、今もらった方がいいだろ。ほら、こぼれるから早くあ~ん!」
結局、半ば無理やり口に入れられた茶碗蒸しだったけれど、優しい甘さについ顔がゆるんでしまった。
「うわ~、美味~!!」
「だろ? ここの茶碗蒸し、ウニが入ってるんだよ。定食の茶碗蒸しとは思えないクオリティだよな」
「さすが小樽! そして地元の人だからこそこんなに美味しいお店を知っているんですね?」
「まあね。お袋が家を空ける時は、親父がよくここへ連れて来てくれたんだ」
それから、残りの茶碗蒸しを食べつつ、お父さんとこのお店へ初めて来たときの話をしてくれた。にこにこと、楽しそうに。
甲賀先生はお父さんのことが大好きなんだな、と感じた。
私も相槌を打ちながら、サラダをもぐもぐ。ほとんど聞き役に徹した。
だって、普段は私が相談を持ち掛けるばかりで、甲賀先生の個人的な話などはあまり聞くことができないから。
それに……その場の雰囲気を壊したくなかった。楽しい家族の情景を、私も実際に眺めているような気分に浸りたかったから。
お会計を済ませる時、甲賀先生は何やら店員さんにからかわれていたようだった。
おごってもらうということで、レジから少し離れたところにいる私を二人で見ながら、店員さんは甲賀先生を肘でつついていた。
こんなことなら、やっぱりジャージ以外の洋服を着てくれば良かった。
でも、今日は甲賀先生もアディダスのジャージ。密かにおそろいなので、別の意味で恥ずかしいかも知れない。