ウェディング・チャイム
~教育実習生には負けたくありません~
~実習生には負けたくありません!~
のんびりする暇もなく新学期が始まってから、もう一週間が過ぎた。来月に迫った修学旅行へ向けての取り組みも始まっているので、子ども達は四月よりずいぶん落ち着いたと思う。
そんな中、落ち着かないのは私だけ……いや、もうひとり。
「甲賀先生、実習日誌のチェックをお願いします」
いつもの雪崩が起こりそうな状態の机で仕事に励んでいた甲賀先生のそばへ、実習生の大崎さん……もとい、大崎先生が近づいてきた。笑顔で日誌を手渡して、ふたりで今日の授業について語っている。
隣の私にもその時の授業の様子がはっきりと伝わって来るような、細かいやり取りが続いている。それだけならいいのだけれど、彼女からは違う感情まであらわにされているのが、正直なところ苦しい。
大崎先生はやっぱり、甲賀先生が好きなのだ。
中学時代、数学の教科担任だったらしいけれど、当時甲賀先生には彼女がいたし、おそらくほのかな恋心を抱く程度だったのかも知れない。
でも、今の彼女は違う。積極的に思えるそのしぐさや声が、私の心をもやもやさせていた。
甲賀先生と大崎先生とのやり取りが終わったらしい。そのまま実習生控室へ戻るのかと思ったら、なぜか彼女はこちらへやって来た。
「藤田先生、ちょっと相談にのって頂けませんか?」
「え? 私、ですか? 何でしょう?」
なぜ、指導教諭の甲賀先生ではなく、私なんだろうかと思いつつ話を促したら。
「すみません、ここではちょっと……」
「じゃあ、私の教室で伺いますね」
頷いた大崎先生の先に立ち、二人で職員室のドアに向かって歩き出す。
ふと甲賀先生を見ると、向こうも不思議そうにこちらを見ていたので『大丈夫です』という気持ちをこめて笑いかけてみた。
すると、甲賀先生も笑顔を返してくれた。
大崎先生が来てからというもの、甲賀先生と話す時間が激減して、何かと不安だった。
今の笑顔だけでも嬉しくなる私は、周りが感じている以上に甲賀先生を頼っているのかも知れない。