ウェディング・チャイム
西日の眩しい教室で、とりあえず一番前の席に座ってもらい、私もすぐ近くの席へ。
年齢の割に落ち着いた、大人っぽい容姿の大崎先生が、不安そうな面持ちで私の顔を見た。
できるだけにこやかに話を促す。
「相談したいことって、何でしょう?」
「明日のプール授業についてです。あの……私……」
もじもじしながら言葉を選ぶその様子で、すぐにぴんと来た。
「もしかしたら、生理になったから泳げない、ということですか?」
「……そうなんです。こういう場合、どうしたらいいんでしょう?」
「大崎先生の場合、実習中ですから『今回は実技指導ではなく、できれば授業観察をさせて頂きたいです』っていう感じで甲賀先生に申し出てみたらいいと思いますよ」
すると、大崎先生の表情が一気に明るくなった。
「なるほど! そうします! ああ良かった~。中学生の頃と違って、この年になってまで『生理だからプール見学させてください』なんて、男の方には言えないですよね」
同意を求められたけれど、私は即座に首を横に振った。きっと彼女に悪気はないのだろうけれど、この現場はそんなに甘いものじゃない。
「……現場に入ったら、嫌でも伝えなくてはならない時もありますよ。普通は『体調が悪いので』って言ったりして、一応直接的な言葉は使いませんけれど。そこは大人ですから、男の先生も解っています」
私だって一学期のプール授業で二回、実技指導ではなく監視に回った。
実技はその時、教頭先生にお願いしたけれど、これも子ども達には「私の勉強のため」と伝えている。
当然、甲賀先生は気づいているだろうと思ったけれど、仕事上仕方がないのだから。
何よりも大事なのは児童の安全確保であり、私がプールに入れない場合、それが難しくなる。
私の生理のせいで子どもが溺れたら大変だから、必ず他の先生にも協力を要請しなくてはならない。