ウェディング・チャイム
……結局、翌日の大崎先生は、学校を休んだ。
これで彼女は、嫌なことから逃げられたかも知れない。
けれど、それでは現場に入ってからやっていけないだろう。
その日は大崎先生がいないということもあり、久しぶりに甲賀先生とゆっくり話すことができた。
「藤田ちゃん、指導案と授業、ありがとう。俺、やっぱり音楽とか家庭科は苦手だから助かったよ」
「いえいえ、私も勉強になりましたから」
「そう言ってもらえると助かるよ。……ところで、ぶっちゃけ大崎ってどう思う?」
甲賀先生が『大崎』って呼び捨てにするのは、中学校で教えていたころの名残り、らしい。
もちろん子ども達の前ではちゃんと『大崎先生』って呼んでいるけれど。
やっぱり、彼女のこと、気になるのかな……。
「ええと……何でもそつなくこなせるタイプですよね。黒板に書いた文字がとってもきれいで驚きました。スポーツ万能みたいですし、指導案もきちんとしたものを作ってきますね」
私がそう言うと、甲賀先生も頷いた。
「表面的にはとても小学校教員に向いている人材だと思うよ。だけど問題は中身だ。大崎は多分、真剣に教員を目指している訳じゃない」
「……どうして、そう感じるのですか?」
もしかしたら、大崎先生はすでに、甲賀先生に気持ちを伝えている、とか?
昨日の彼女の様子では、まだそこまでの行動はしていないと思うけれど、ああ見えてなかなか鋭い甲賀先生からは全てお見通し、なのかも知れない。
甲賀先生の答えを待つ私は、内心ヒヤヒヤしていた。