ウェディング・チャイム
「昔、言ってたことがあるんだよ。『お父さんみたいになりたくない』ってね。中央小学校の校長が大崎のお父さんなんだ。知ってたか?」
大崎先生のお父さんが、中央小の校長先生?
言われてみれば、確かに同じ苗字だけれど、ヒラ教員の私とは縁遠いから気にしたことがなかった。
ということは、大崎先生って、この業界のサラブレッドだったんだ。
「俺が教えてた頃、すでに大崎のお父さんは管理職になっていたよ。『単身赴任していて、ほとんど家に帰って来ない。たまに帰って来ても、仕事ばかりしていて、ちっともお父さんっぽいことをしてくれない』って愚痴ってたんだ。俺もその気持ち、少しは解るけどさ……」
そう言って、甲賀先生はふうっとため息をついた。
「お父さんは反対したそうだよ、教員になることを。それでもこの道を選んだという割に、どこか冷やかであまり子どもの中に入って行こうとしないんだ」
「そういえば……。休み時間、特定の女の子達とばかり教室で一緒に話をしていますね。みんなで鬼ごっことかドッジボールとか、あまりしている姿を見たことがないかも知れません」
「そうなんだ。そっちは俺が相手をしているからまあいいかって思ってるのかも知れないけれど、大崎は男子とほとんど会話したことがない。女子とも俺をネタにしゃべる程度らしい」
「どうしてでしょう? 実習生なんて一番子ども達と楽しく関われる時期なのにもったいないですね」
私が首をかしげると、甲賀先生もうーん、と唸りながら呟いた。
「子どもとの関わり方がわからないのかも知れない」
「大崎先生って、きょうだいは?」
「一人っ子だよ。それに、友達も少ない。中学時代、いつもひとりぼっちだったから、気になってたんだ」